毛探偵

□因幡探偵事務所の小さな出来事
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「あ」

 ふと俺は気付いた事があった。

「因幡さんってもしかして…」



 ―――――――――男好き?







「いやいやいや、そんなことありませんよ圭くーん」
「だってだってだって!」
「いいじゃないですか、ゲイでも。僕は気にしませんよ!」
「そもそも何で俺が男好きって思ったわけよ?」

 ソファに凭れかかりながら、頭痛を抑えるように洋は頭を手で抑える。圭は言い出しにくそうにしながらも、自分なりの根拠を主張し始めた。

「荻さんにベッタリだし!」
「ベッタリじゃねーよ!アイツがよく押し掛けてくるし、相棒だったよしみだ!」
「遥には甘いし!」
「いやだって、弟だからな…?」
「蔵見さんには懐いてるし!」
「黒髪ストレートのロングだぞ!?もろ好みなんだよ!」
「ホラぁ!やっぱり!」
「毛の話だ!」
「白熱してますねぇ」

 洋と圭、両者が熱くなっていく中、その場に居合わせていた優太だけはお茶を啜りながらのんびりと指摘した。

「でも先生」
「ん?」
「先生って地毛の人見ると、喜び勇んで飛びついて行きますけど…全員、男ですね?」
「そうそうそうなんだよ!」

 優太の発言に、圭は自分の言いたかったことはそれだとばかりに勢いよく頷き、洋に向き直って畳みかける。

「因幡さんがじゃれつくのって男だけなんだよ!」
「いい大人の俺が女にじゃれついたら、ただの痴漢か変質者じゃねーか!」

 元警察犬が警察の厄介になって堪るか!と洋は吠えた。洋の反論に、圭は不意を突かれたように勢いを無くす。

「あ、そう言えばそうだね…」
「だろ?俺だってそこまで節操無しじゃねーよ」
「節操無しって自覚あったんだ?」

 そう言いながらも、圭は洋に素直に謝る。

「そっか、ごめんなさい因幡さん」
「分ってくれりゃーいいって」

 年下に甘い洋は、圭が謝ればヘラっと笑いながら頭を撫でた。優太は自分も撫でてもらうようせがむように洋にくっつきながら、また邪気の欠片もないような華やかな笑みで言う。

「そういえば、先生は男にモッテモテですよ!」
「…優太、どういうこと?」

 右手は圭を、左手は優太を撫でた動作のまま、洋は笑顔で固まった。

「緒方さんは先生にメロメロですし」
「アイツ犬好きだからな〜…」
「遥は歪んでるくらい先生に執着してますし」
「アハハ、アイツ甘えん坊だから…」
「荻さんも…」
「アイツは妻子持ちだし!」
「僕も先生のこと、大好きですよ?」
「そーかそーか、サンキュー…」
「………」

 圭は笑顔を引き攣らせた洋を見逃さなかった。優太の言葉を咀嚼し、圭はしみじみと頷く。

 因幡さんって、男専用のフェロモンでも出てるのかな…
 

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