毛探偵
□恋か?遊戯か?それとも?
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寂しいのか?
柄にもなく突っ込んだことを尋ねると、目の前の男は眉を下げて微笑んだのだ。
瞳が、人恋しいと泣いているようだった。
スイートルームの壁一面に張られたガラスは、街の夜景を惜しげなく見せている。洋はそこにガラスがあるのを確かめるように、窓に手をついた。
「すげぇな。スイートとか初めてだぜ」
「俺だって滅多に来ないさ」
洋の後ろから覆いかぶさるように蔵見は立つ。洋にならうように深い色の赤毛越しに、彼も街の灯を見下ろしていた。前には窓、後ろには蔵見という限られたスペースの中で洋は小さく身を捩り、蔵見を振り返ってからかうように笑う。
「勿体ないな。恋人とのデートじゃなくてよ」
「酷いな探偵さん、今はアンタとデート中のつもりだったんだが」
「それは悪かった。俺、気ィ回すの下手でさ」
クックッと洋は全く悪びれていないかのように肩を揺らした。ひとしきり笑うと、遠くを見つめるように目を細め、ガラスに映る蔵見の影と視線を重ねた。
「昔、一回だけ女とデートした時に言われた。『気が利かないわね!』って」
俺、見ようによってはチャラチャラ遊び慣れてるように見えるらしくてさ。プラプラしてたら逆ナンされたんだ、と洋は大袈裟に胸を張って見せる。
綺麗な髪ね、と声をかけてきた女の顔を洋はよく覚えていない。ただ、地毛愛好に反する明るい茶色に染められた長い髪と、紅い唇が毒々しいほどに綺麗な弧を描いていたのは覚えている。
あぁ、爪も紅かった気がする。
赤が好きだったのだろうか、全体的に情熱的な印象を受ける女性だった。
「逆ナンされて、付いてったのか?何か意外だよ」
「俺の髪が気に入ったらしくてな。どんな風に手入れしてるのって聞いてきたから、正しい毛のあり方を教え込んでやろうって思って」
その女、髪染めてたんだよと付け加えれば、蔵見は納得したように苦笑した。
「気の利いた言葉も行動も出来なかったし、分らなかった。あんまり女と接したことないし………まぁ、当時は色々あったしな。俺きっと、色恋沙汰には向いてねーんだ」
「………それは冗談か?」
「何が?」
「いや…」
真顔で尋ねた蔵見だったが、洋が首を傾げたのを見て、また首を振って苦笑した。
「性質が悪い人だね」
吐息と共に蔵見は洋の耳に囁いた。洋は不思議そうに目を丸くする。そんな事を何故言われるのか、微塵も分らないという風に。蔵見はそれが可笑しくって、クツクツ低い笑いを零す。
無意識に誘いやがったのか?
あんな目をしておいて
分らないなんて
「アンタに惚れられた男が妬ましいよ。全く」