毛探偵

□愛しい禁忌
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 優しいにーに

 可愛いにーに


 大好きな兄、唯一の肉親、僕が愛するただ一人の人

だけど

にーには僕を、ただの男として見ることはない





「何で僕は、あんたの息子なの」
「文句あるのか、クソガキ」
「大有りだよ」

 遥の横でふてぶてしくコーヒーを飲むのは、寡黙な弥太郎ではなく、弥太郎に憑依した聡明だった。弥太郎では考えられないほど、剣呑な目つきで遥を睨む。遥は気にも留めず、無表情を崩さないまま淡々と続けた。

「あんたの息子でさえなければ、にーには僕を男として見たんだよ」
「は?」
「血さえ繋がっていなければ、僕は弟じゃなく、ただの男だった」

 聡明は目を丸くし、そして何が可笑しいのかクックッと低い笑いを漏らした。

「洋のこった。同じ境遇で年下で、しかもモヤシのお前を、赤の他人でもそりゃあ弟のように可愛がるだろうよ」
「じゃあ…」
「タメでも年上でも、そんな変わんねぇ」

 聡明は、病弱な遥とは正反対の上の息子を思い浮かべる。洋が幼い頃から遥を大事にしているなど、遥の言動等で聡明も重々認識していた。

「じゃあ、どうだったら良かったのさ。病弱じゃなければ良かったの?」
「あのなぁ、そういう問題じゃないの」

 聡明は次第に熱くなっていく遥を遮り、宥める様に口調をゆっくりさせて諭す。

「アイツはなぁ、お前が生まれる前、そりゃあ孤独だったろうよ。
仲間も同胞も家族だって一人もいなかったんだからな。お前は生まれた時から洋がいたから、よかったけどさぁ。
 そんで、洋が寂しくて寂しくてしょうがない時に生まれたのがお前。
 同じ境遇で無償に甘やかしてやれる肉親ができたんだ。もう無条件にいくらでも可愛がってやるって程、嬉しくって堪らなかったってわけ」

 遥はそんな事分かっているとばかり不機嫌そうに頷いた。反抗的な態度の遥に、聡明は一つ溜息を零すと気だるく言い放つ。

「兄弟仲良しは悪い事じゃねーと思うけどな、お前は洋に執着しすぎじゃねーの?いくら俺でも、近親相姦はいただけねーよ」

 ましてや自分の息子達だと思うと、今すぐにでも止めたい気分なんだけど。聡明は呟きながら遥を見やった。遥は聡明を見ず、真っ直ぐ正面を向いている。ちらりとも顔色を変えていなかった。

「昔みたいに、僕は狭い世界にいるわけじゃないけれど」

 遥の赤い瞳は、遠い過去に思いを馳せているようだった。

「今も昔も、僕の世界の中心は、にーにだけだよ」

 そう言い放つと遥は珍しく、幼子のようにニッコリと聡明に笑いかける。

「僕がにーにを愛して、欲するのもしょうがないでしょ?」

 誰かが異常と言おうとも、自分からすれば限りなく正常な事なのだ





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