短編
□愛くるしい
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「長野博ー」
「んー?」
「なーがのくーん」
「はーあーい」
「博くーん」
「何ー」
「ひろしー」
「はいはい」
「ひーくん」
「何ですかー」
「ナビ」
「…ずいぶん懐かしいネタ振ってきたね(笑)」
ソファの上。
晩ご飯を食べ終わり、2人でソファに並んで座って、絶対に意味がないと思う会話を延々と続けるのが、最近の2人のブームだったりする。
「ねえ、ナビノ」
「なに(笑)」
「違うでしょ!返し方!」
「え、何だったっけ?あっ、あれだ、“ナビって言うな”!」
「そう!それそれ」
優しく笑う菜奈美の頭を軽く撫でてみた。
柔らかい髪が指に絡み、それがほどよくくすぐったくて気持ち良く感じる。
すると、菜奈美も俺の髪に指を絡めて遊びはじめた。
「ふわふわだ、博くんの髪」
「菜奈美もふわふわだ」
「博くんのが弾力ある」
「髪って弾力とかいう問題だったっけ?(笑)」
「えー、分かんない(笑)」
菜奈美の髪に鼻を近付けると、ふわりと香るシャンプーの香り。
少しとろんとしてきた長いまつげ。
柔らかそうな唇。
彼女の存在の、全てが愛おしい。
俺はさりげなく、菜奈美の唇にキスを落としてみた。
「…ん、」
「あ、ごめん」
「何であやまるの?(笑)」
「いや…びっくりしたかなあ、と」
「…ねえ、博くん」
「ん?」
「もっかい!」
満面の笑みで俺に顔を近づける彼女に、心から、可愛いなあなんて思ってしまった。
いや、違う。
可愛いじゃなくて、愛おしいじゃなくて、もっと、こう、ほら、菜奈美にぴったりの言葉があるはず。
「ひーろーしーっ」
「え、ああ」
「ほら、もっかいってば!私からしちゃうよ?」
俺が返事をする間もなく、ちゅ、と音をたてて菜奈美と俺の唇が触れ合った。
ああ、そうか、分かった。
恥ずかしそうに笑う菜奈美をぎゅっと抱きしめると、菜奈美も俺の背中に腕をまわしてきた。
ふわりと香る、シャンプーの香り。
少しとろんとしてきた長いまつげ。
柔らかそうな唇。
優しい、笑顔。
そんな彼女に、ぴったりの言葉。
愛くるしい