短編
□12ヶ月
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「菜奈美、」
こっち向いて。
そう言って頭をなでる。
けど、その感触は手に伝わらない。
あれ、おかしいな?
君はここにいるよね?
「ねえ、」
もう一度呼べば、菜奈美は俺に振り向く。
それから、声のない言葉で、笑顔で俺に言うんだ。
“ばいばい”って。
そこで俺は、目を醒ます。
ああ、今日もだ。
あの日からずっと、夢の中で菜奈美は毎日、俺に微笑む。
そして毎日、俺に別れを告げる。
ごめん、ごめんな、菜奈美。
俺はまだ、君とサヨナラするのが怖いみたいだ。
今日も俺は目尻を伝う涙をぬぐって、君の名前だけを呼び続けた。
12ヶ月