短編

□とある夜のお話
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今日は久しぶりに菜奈美からのメールが1通もない。
おかしいな、いつもだったらどんなに忙しくてもメールか電話を必ず一度はしてくるのに。
時計を見上げると既に23時を回っていて、日付が変わる時刻に近づいていくにつれて何故かそわそわしてしまい、何度も携帯を開いたり閉じたりを繰り返してしまう。

いや、なんで俺はこんな落ち着きがないんだ?連絡がなかったって別に何があった訳でもないだろうし、付き合いたての若いカップルじゃないんだから。

そう思えば思うほど気持ちが落ち着かなくなり、俺は乱暴に頭をかくとソファに体を倒した。


「…ひょっとして、」


男といるとか。
一瞬だけそんな事を考えたがすぐにやめた。菜奈美に限ってそんな事する訳がない。

事故った?事件に巻き込まれた?
いやそんなことも考えたくない。じゃあなんでだよ。

大きくため息をつき、また携帯に手を伸ばし画面を見てみるが、やっぱり、メールの受信ボックスに新着メールはなし。


「菜奈美ー…」


ため息混じりに呟けば、あまりに情けない自分の声に思わず泣きそうになった。


「ん、呼んだ?まあくん」


突然菜奈美の声が聞こえ文字通り飛び起きると、俺の後ろに、当たり前のように菜奈美が立っていた。


「え、な、おま、何で、ここ居るんだよ!!」

「何でそんなにびっくりしてるの?合鍵持ってるんだから、普通に入ってくるのいつものことじゃない」

「だって連絡ないし、」

「あっ、そうだ!夕方に携帯の電池切れちゃったんだよね」


ごめんごめん、充電器借してくれる?なんて言いながら荷物を置いて俺の横を通り過ぎようとする菜奈美の腕を思い切り引っ張ると、菜奈美はあっという間に俺の腕の中におさまった。


「えっ、ちょっとまあくん、」

「ふざけんな」

「え?」


ふざけんなよ。こんなことされて、どんだけ俺がお前のこと好きなのか、嫌でも気付かされたじゃねえか。


「菜奈美、」

「はい」

「今から言うこと、俺が今心から思ってる事だから」

「…うん」


世界で一番愛してる。

耳元でそう呟けば、抱きしめているから顔は見えないけど、菜奈美の耳がどんどん赤くなっていくのが分かる。


「やっば…可愛い」

「な、によ、急に、」

「だって可愛いんだもん」


菜奈美が家に来るまでの間、俺の行動がどれだけ落ち着かなかったかなんて話は、絶対にしてやらない。





とある夜のお話







 

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