短編

□変わらない愛を永遠に
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(絶対ビッグになってここに帰ってきてやる)

(そしたら、俺たち結婚しよう)

そんな言葉を残し地元を離れて行ったあの馬鹿は、今頃何を考えているんだろう。
彼女であった私はおろか、彼の家族にだって連絡がないまま6年。
その6年の間に、ドラマや映画バラエティーに歌手、何でもこなすマルチ俳優・森田剛の名が、あっという間に日本中に知れ渡った。
あの馬鹿は6年間、地元に連絡ひとつ寄越さず、気付くと芸能人になっていたのだ。


「…訳分かんないよ、森田剛」


ワンセグの向こう側でバラエティーの司会者と笑って話す剛に向かって、投げやりに呟いた。
私は今も地元に残り、親の花屋を継いで働いている。
心のどこかで、剛が帰ってくるのを待ちながら。


「…、店員さん、」


はっと顔を上げると、花を抱えたお客さんが不思議そうな顔で私を見ていた。


「あっ、すみません、いらっしゃいませ」


慌てて立ち上がり仕事を再開した。




いい加減結婚も考えなきゃいけない歳なのに何呑気に白馬の王子様が迎えに来るのを待っているんだろう。
もうあの馬鹿がここに帰ってくるはずないのに。

(…馬鹿は私かな、)

そう思いながら、仕事がひとくぎりついてふと店先に目をやると、人が一人、佇んでいた。


「いらっしゃいませー…」


お客さんだよね、不審者じゃないよね。
私がそう思ってしまうのも無理はないと思う。
だって、地味なカッコで帽子を目深に被って、マスクまでしてるんだもん。
なんとなく男だということは分かるけど。

その男はゆっくりと店内に入ると、近くにあったミニブーケを手にし、レジカウンターにぽん、と置いた。

(良かった、お客さんだ)


「いらっしゃいませ、プレゼント用ですか?」


まだ不信感は抜けてないがあくまで普通の対応をする。
彼が私の言葉に頷いたので、私はブーケにプレゼント用のリボンをつけた。

リボンを巻きつけて、バランスを見ながらリボン結びをする。
ああ、そういえば私がまだこの店を手伝い始めたばかりの時。
ラッピングが汚いとお母さんに怒られて、それを見た剛が涙目になりながら笑ってたっけ。
お前不器用だな。そんなんじゃ将来主婦任せらんねえよ。
楽しそうに言う剛の声。今もこんな鮮明に思い出せるなんて。


「上手くなったな、リボン結び」


ぴたり、とリボンを持つ手が止まってしまった。不審者みたいなお客さんが発した声は、さっき頭に響いた彼の声と同じで。
びっくりして顔をあげると、帽子とマスクを外した彼の顔は、紛れもなく私の待ち侘びていた白馬の王子様。


「………剛」

「おう」


おうじゃないわよ。
なんで突然この街を出ていったのよ。
なんで6年間連絡寄越さなかったのよ。
なんで突然芸能人になったのよ。
言いたいのに言葉にならず、代わりに大粒の涙が溢れ出した。


「…ば、か」

「うん」

「ばか、っ」

「うん」

「ごうっ」

「うん」

「っ剛、」

「…菜奈美」


剛は泣きじゃくる私の左手を引くと、ブーケから引き抜いた一つの花を、私の薬指に巻き付けて結んでみせた。
その花は、ストロベリーフィールドと呼ばれる花。


「菜奈美なら知ってんだろ、この花の花言葉」


ストロベリーフィールド。
この花の花言葉は…


「…菜奈美、結婚しよう、俺と」


6年間待ち侘びていたその言葉に、私は大きく頷いた。






変わらない愛を永遠に













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