短編

□キミニアイニ
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日付が変わり、そろそろ寝ようと思ったとき、聞き覚えのあるメロディーが聞こえた。
鼻唄のようなそのメロディーは、他でもない、私が一番好きな歌。
どこから聞こえるの…?
…外から?
ベランダに出てみると、本当の音源は隣のベランダ。
お隣りは確か男の人が一人で暮らしていたはずだ。表札なんて滅多に見ないから名前知らないし、姿を見たことがある訳じゃないけど。
その歌を知っている人が身近に居たと知って嬉しくなり、思わずそのメロディーに合わせ歌詞を口ずさんでみた。


「“世界中の花を持って 君に愛されに来たんだ”…」


すると隣の声は、驚いたのか少し声が小さくなったが、またすぐにさっきと同じ様に綺麗なメロディーを奏でた。
ワンコーラスを歌い終わり、しんとした中最初に口を開いたのはお隣さん。


「…知ってるんだ、この歌」

「はい、私の一番好きな曲なんです」

「へえ…そっか、」


俺も好きだよ、この歌。
そう言う彼の声は、確かにどこかで聞いたことのある声。
どこだろう…どこかで…知ってるはず。


「…名前は?」

「あ、えと、菜奈美です」

「菜奈美ちゃん、」

「はい、あの、あなたは…」


私がそう聞くと、彼は、んーと唸って、あ、そうだ、と隣から身を乗り出し、私の方に顔を向けた。
その顔を見た瞬間、私はあっと声を漏らした。
そりゃあ声だって聞いたことがあるはずだ。
だって、私が一番好きな人なんだから。


「分かる?俺」

「准…くん、」

「ははっ、正解。やっぱファンの子や」


隣のベランダに乗り移る事なんて、運動神経抜群の彼なら簡単なことらしい。
軽々と私の部屋のベランダに移り、私の前に立った。
ああ、背、やっぱりそんな大きくない。けどTVで見るよりもずっと綺麗な顔してる…。


「我ながら好きなんだ、あの歌」


もしよかったらちょっとだけ話さへん?
そう恥ずかしそうに笑う准くんに、私は戸惑いながらも頷いた。






キミニアイニ











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