短編

□すきです、あなたが
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 「…ねえ先生、」


 先生。


 「何だ、***」


 プリントから顔を上げた先生の
 まっすぐな瞳と視線が合う。

 合った視線をそらしたくなくて
 そのままじっと見つめてたら、
 呆れたように笑われてしまった。


 「なんだよ、早く言えよ」

 「…んーん、別に」


 嘘。本当は、言いたいことがある。
 でも、それは一生口にしてはいけない。


 「…先生。」

 「だから何だって」

 「まーあーくんっ」

 「おまっ、お前、
  その呼び方はやめなさい!」

 「いーじゃん別に、
  奥さんからはそう
  呼ばれてるんでしょ?」


 私がそう言うと、先生はばつが悪そうに
 がしがしと頭をかいた。

 左手の薬指にはまるシルバーリングが
 憎たらしいほど綺麗に輝いている。


 「…あのさあ先生、」

 「なに」


 好きだよ。

 好きになったら
 いけないのは分かってるけど、
 それでも好きなんだ。


 「…ジュースおごってよ。
  下の自販機でいいから」

 「何で俺がお前に
  奢んなきゃなんねえんだよ」

 「こないだのテスト、
  先生の教科結構頑張ってたでしょ?」

 「んー…しゃーねえなあ」


 他の生徒には内緒だぞ。

 そう言って笑った彼の表情を見て、
 私の胸は、潰されたように
 苦しくなった。





すきです、あなたが
















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