短編

□はんぶんこ
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 ベッドの上で、
 息苦しさから目が覚めた。

 夜だからということもあるだろうけど、
 不自然に辺りが暗い。

 私にぴったりと触れた肌から、
 息苦しいのと暗いのは
 准一に抱きしめられて
 いるからだと気付いた。


 「…じゅん、」

 「あ、悪い。起こした?」

 「ん…大丈夫」


 准一の胸を押して少しだけ
 離れようとしたが、
 離してくれない。

 それどころか、さっきよりもっと
 強く私を抱きしめてくる。


 「准一、ちょ、くるしい」

 「ごめん…今だけやから」


 寝起きの無防備な声で言う
 私とは裏腹に、強い声で准一が言う。

 その声が少し震えていることに気付き、
 離れようとするのをやめた。

 しばらくして、准一が力を緩めたから
 そっと体を離して准一の顔を見ると
 間接照明の光が、まっすぐに
 枕へと落ちた涙の跡を照らしている。


 「…泣いてたの?」

 「みたいやな」


 涙の跡を隠すように、
 准一は仰向けに寝返りを打ち
 手をおでこに乗せた。


 「夢、見てん」

 「夢?」

 「内容とか何も覚えてへんのに
  目が覚めたら勝手に涙溢れてて、
  無性に菜奈美が恋しくなって…」


 格好悪いな、俺。

 そう呟く准一の横顔は
 まだどこか悲しんでいるように見える。

 そんな准一の体を、
 今度は私が強く抱きしめた。


 「准一、」

 「…ん」

 「大丈夫だよ。
  私はここにいるから」


 寂しいのは私も一緒だから。
 でも、私達は1人じゃないから。

 准一の唇にそっとキスをすると、
 准一はまた、静かに泣き出した。





はんぶんこ

















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