短編

□幸せな未来を期待して、
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 いつもの駅前、
 いつもの電灯の下で、
 いつもとは全く違う気分で
 快彦と待ち合わせ。


 (快彦遅いなあ…)


 もう何だかんだかなりの時間
 快彦を待っている。
 こんな日に遅刻なんて!と
 イライラしながら携帯を開いたら、
 液晶画面に表示されている時間は
 待ち合わせ時間の30分前だった。
 単に私が早く来すぎていただけらしい。

 緊張からか
 少しお腹が痛くなってきた時、
 改札口から、いつもは絶対着ないような
 清楚な服を着た快彦が現れた。

 やっぱり、快彦も
 かなり緊張しているらしい。
 いつも笑顔な彼の表情が硬い。


 「快彦!」


 名前を呼べば、
 無理矢理笑顔をつくった快彦が
 私の所へ駆け寄ってきた。


 「快彦ってそんな作り笑い
  下手くそだったっけ」

 「う、うるせえな!
  さすがに俺だって緊張するわ、
  菜奈美のご両親に
  結婚の挨拶なんて!」


 結婚の挨拶。

 その言葉が妙に嬉しくて、
 思わず笑ってしまった。


 「何笑ってんの」

 「え?…ああ、
  今日の快彦の服、
  あさイチの衣装みたいだなって」

 「変?なんか堅苦しい?
  それともラフすぎるかな?」

 「んーん、大丈夫だよ。
  そろそろ家行こうか?」


 いつも通り繋いだ手は
 かなり汗ばんでいる。

 そこから私の実家に着くまでは
 お互い何も話さず、
 繋いだ手から伝わる
 お互いの緊張だけを感じていた。


 「着いたよ、ここ」


 一軒の家の前で、
 2人一緒に立ち止まる。

 ゆっくり手を離すと、
 快彦は大きく深呼吸をした。


 「俺…多分今、
  人生で一番緊張してる」

 「私も」


 私が生まれた時から
 大学を卒業するまで、
 ずっと暮らしてきた家。

 そんな家に快彦と帰ってこれたことが
 たまらなく嬉しい。


 「じゃあ、行こうか
  菜奈美」


 決心したような目で
 インターホンを強く押した快彦。

 その横顔を見て、
 彼と一生をすごしたいと
 改めて願った。





幸せな未来を期待して、
















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