短編

□キスからはじめよう
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「菜奈美〜」

「うん?」

「腹へった〜」

「あと10分!」


さっきからこればっか。
お腹が空いたから晩ごはんを
作ってくれと突然押し掛けてきた
快彦は、さっきからこうやって
ぐずってるだけ。
そんなに我慢できないなら
手伝えばいいのに。


「わざわざご飯つくってあげてる
 私の身にもなってよね?
 彼女でもないのに」


ぶつぶつ良いながらも、
毎晩快彦が来ることを期待してるのは
やっぱり彼をただの友達だと
思えてないって事なんだろうけど。


「いーじゃん別に、
 菜奈美彼氏いないんだから」

「そういう問題じゃないでしょ」

「俺がこうやって
 押し掛けてくるのが嫌なら
 さっさと彼氏つくることだな!」


にやにやして、
カウンターで頬杖をつく快彦が
可愛くて、熱くなった顔に
気付かれないように、
快彦から顔を背けた。

切った野菜を鍋に入れて、
それを炒めていく。
その間ずっと快彦の視線を感じて、
動きとか手順がどこかぎこちなく
なっていないか心配でたまらない。

水を入れて野菜を煮込んで、
カレーのルーをぼとぼと
鍋に落としていると、
視界の隅っこにいた快彦が
ごそごそと動き出した。
彼が動いた先は、どうやら私の後ろ。


「カレー?」

「うん。あ、カレーでよかった?」

「うん、全然いい。
 カレー大好きだし!」


後ろを振り向けば、
快彦はにこにこしながら
私の肩越しに鍋を覗き込んでいた。
思わずじっと見ていたら、
視線に気付いた快彦とばっちり
目が合ってしまった。
ああ、今日は出来るだけ
目合わせないようにしてたのに。

すると、急に真面目くさった顔で
名前を呼ばれる。
その間、至近距離で
目が合ったままだから、
当然私の心臓は一向に
静かになろうとしない。


「な…に、」

「…」


一瞬、快彦がにやりと笑った気がした。
でもそんな事を確認する間もなく、
唇に感じる温かい感触。


「〜っちょっと!!!」

「うん?」


無理やり快彦を離すけど、
いつの間にか腰に回された手は
そのままで。


「え、だってこういうの
 期待してたんじゃないの?」


ひょっとして、全部快彦にばれてた?
馬鹿にしてるのかと思うくらい
にやにやしてみせる快彦が
「菜奈美ちゃん顔真っ赤〜!」
なんて冷やかし始めたから、
腰に巻き付いている腕を振りほどいて
また鍋に体を向きなおす。


「ねー腹へって死にそう!!」

「はいはい、静かに待ってて!」

「早く彼氏様に
 美味しい美味しいカレー作ってね?」


彼氏気取りになってるし。

また勝手に巻き付いてきた彼の腕を
今度は振りほどかず、軽く
手を重ねてみたりした。





キスからはじめよう












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