Ib

□廃屋の少女
1ページ/7ページ



その屋敷が心霊スポットとして有名になったのはここ数週間のことだった。

街の郊外にあり、人の出入りもなく、もはや地元の人々からも忘れられていたその屋敷は何十年も前にとある資産家の一家が住んでいたのを最後に突然幽霊屋敷となってしまったという家で、住宅などを扱う不動産業界の友人に話を聞くまではゴシップ雑誌の片隅に夏場だけ載せられる“身近にある怖い所”の代名詞であった。

しかし、最近の美術・芸術ブームに乗って美大やその専門学校が多いこの街に来る人の数は年々右肩上がりだ。
当然、恐いもの見たさに訪れる若者の数も自然と増え、有名になってしまったという訳だ。




そんな有名心霊スポットを目の前にして、紫色の髪をした奇抜な格好の男性・ギャリーは中へ入ることをかなり躊躇していた。

「…いくら前々から放置されてたからって…。こんな風になる前に気付かなかったわけ…?」
『仕方ないでしょ?人の噂になってからじゃないと私達みたいな“怪異”は力を持てないんだもの。まぁ、この街は元々人が少なかったから人の噂になるには時間がかかったってことも要因の一つではあるけど。』
「…出来たらアンタ一人で行けないの?」
『ココからじゃムリよ。』

ギャリーは重苦しいため息をつきながらまるで独り言のように言う。
周りは閑散とした郊外。もちろん人影などは全く見えず、さらに言えば目の前の幽霊屋敷の噂話の影響でその近辺に住む人も居ないため、人の気配など微塵も感じられない場所と化している。様々な要因が重なったからなのか、彼が今立っている場所はもはやお化け屋敷など目じゃないくらい不気味だった。

そんな場所にたった一人で立つ彼はいい年をした成人男性だというのにビクビクしている。話し相手なのだろう姿なき声の主はそんな彼の姿を楽しんでいるのかクスクスと小さな笑い声を漏らしては、恐がる彼をよそに「早く入ってよ」と急かした。



ギギィ…と錆ついた蝶番が軋んだ音を立てて屋敷の扉が開かれた。
中は薄暗いだけでなく空気には長い年月人の出入りがなかったことを示すかのように微かに埃っぽい空気が漂っていた。

「思ったより空気が淀んでなくてよかったわ。」
『肝試し…だっけ?ソイツらが最近も入ったんじゃない?人間も暇よね〜』
「…そういったことをする連中に関しては否定しないわ…」
『さて、中に入ればこっちのものだし、私そろそろ出ようかしら。』
「ちょっと!ここにアタシ一人にするつもり!?」
『いやならついてくれば?』
「うぅ…」




 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ