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□片隅からの再会
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先日、美術館で不思議な出会いをしました。
鬼才として名高いワイズ・ゲルテナの展覧会。
最近美術大学の課題にばかり追われていたこともあって、気晴らしになるかもしれないと本当にそんな些細な気持ちだった。
入った途端目の前に広がった「深海の世」の壮大さにびっくりしたわ。
まるで吸い込まれでしまいそうだった。
他にも抽象的な絵画や今にも動き出してきそうな銅像達があって、気晴らしよりも創作意欲が刺激されたった感じ。
でも何故か「無個性」とか「赤い服の女」っていう作品だけは一定距離以上近寄れなかったのよね。…他の人は大丈夫そうだったのに。
そうそう、不思議な出会いのことよね。
どうしてそこにいたのか分からないけど、アタシ「精神の具現化」って彫像の前に居たのよ。
そこで何を見るでもなくボーっとしてて、そしたら後ろから声をかけられたの。
「…ソレ、なんていうの?」
こげ茶色のストレートヘアーをした赤い目が印象的な女の子だったわ。
見た感じジュニアスクールに通ってるくらいの年みたいだったから、きっと字が読めなかったのね。
「精神」も「具現化」も難しいから…
で、よ。
その女の子…ど〜にも引っかかるのよ。
べ、別にそういう趣味があるわけじゃないわよ!?勘違いしないで頂戴!!
…話が脱線したわね。
はじめて会った筈なのに…ね。
あの子が無口で、自分の考えを表に出すのが苦手なんだとか、気丈で優しい子なんだって自然と分かったのよ。
しかも名前まで読んじゃったのよね。
確か…「イヴ」。
そうイヴ!
身なりもかなり良かったし、きっと良家のお嬢様なんだろうけど、また…会ってみたいのよ。
…あら?
今アタシ誰と話してたのかしら…?
――まーだだよ。
まだ早いの。
あの子は簡単にアンタにあげたりしない。
だから、もう少し…待ってなさい。