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□廃屋の少女
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薄暗いエントランスホールで姿なき声と会話をするギャリーは屋敷の奥に広がる暗闇とありもしない不気味な気配に怖気づくように怯むが、意を決したように表情を引き締めると片手で抱えていたある一枚の絵画を自分の正面に持っていき…

「行くわ!行くわよ!!こんな場所に一人取り残されるならアンタと一緒に行ったほうがマシよ!」
『ひゅ〜男前ね!そうこなくっちゃ!』

姿なき声の主はギャリーをからかうようにそう言うとその姿を徐々に現し始めた。

彼が持つ絵画…深い緑色のクラシックワンピースに青いスカーフ、豊かで艶やかな金色の髪に空色の鮮やかな瞳を持つ10歳前後の少女が微笑むその絵が次第に色あせて、色とりどりのバラが溢れた背景だけが残る頃、ギャリーの目の前、性格には彼が持つ絵画の向こう側には絵画に描かれていた少女が、まるでそのまま絵から抜け出てきたように佇んでいたのだった。

「…メアリー…」
「ふふ、ギャリーってば本当に怖がりね。毎回毎回そんな律儀に驚かなくてもいいのに。」
「…そりゃ……驚くに決まってるじゃない!!アンタってば本当に性格悪いんだから!アタシがこういうの嫌いだって知ってて毎回やってるでしょ!!!」
「も〜ウルサイな〜。い〜じゃん、いっつも絵の中だからつまんないのよ。」

少しくらいアンタで遊ばないと退屈なの。と悪びれた様子もなくいけしゃあしゃあとのたまう彼女はクルリとギャリーに背を向けるとまるで勝手知ったるといわんばかりに屋敷の中へと進んでいった。

「ちょ…!アンタ、この屋敷の中のこと、知ってるの?」
「知らないわよ。ギャリー知ってるでしょ?アタシがあの部屋から基本的に出られないってこと。今回此処に来れたのだってギャリーがアタシの絵を持ってきてくれたからじゃない。」
「…あ、そ、そうよね。」
「アタシは知らないけど…。此処に昔から居る絵がさっきから呼んでるのよ。」

だからこっちだと思うんだけど…とそう話すメアリーはギャリーを置いてどんどん先へと進んでいく。そのことに気付いたギャリーは慌てて、彼女に着いていく為に不気味な屋敷の奥へと足を進めていくのであった。






薄暗い廊下。
大きめの窓からはまだ昼間だと言うのに薄曇りの空しか映っていないため灯りが乏しく、窓の無い場所などは夜の様な闇に包まれている。

「これで雷でも鳴ってれば雰囲気バッチリなのにね。」
「アンタが言うと実現しそうだからやめてちょうだい…」

二階の廊下を歩くギャリーは年甲斐もなくビクついているのに対し、メアリーはギャリーには聞こえない声の主を探すように一部屋づつ中を覗いては部屋中を物色しているようだった。

正直、ギャリーはこのような場所が苦手である。
世間一般で言うお化けや幽霊というものなど一切信じてこなかったが、今彼の目の前で真剣に部屋を物色している可憐な少女然としたメアリーという絵画に出会ってその概念は一変した。本当に“いた”のだ。幽霊…いや、本人いわく『怪異』という存在は…
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