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□廃屋の少女
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彼女…メアリーと出会ったのはおよそ一年くらい前のことだった。
画家を志したもののギャリーの絵はまだまだ認知度が低く、小さな出版社や雑誌などでイラストレーターや挿絵師をさせて貰っているのが現実である。
元々孤児であった事もあり、絵の勉強をより出来るこの街に来て家賃が安い赤レンガ造りのオンボロアパートに引っ越しをしたのが彼女と出会うきっかけであり、その先の不幸の始まりであった。

ギャリーの前の入居者も画家だったのか、部屋の所々に絵の具や描きかけのカンバスなどが放置されたままになっており、中には落書きとも見えるような猫の絵や迷路のような魚の絵などが埃よけもなくそのままにされていた。
勿論、そんな状態のまま過ごすわけにもいかず、ギャリーが引っ越して最初の作業は部屋の掃除となったわけだが…その掃除の最中に偶然見つけた絵がメアリーだった。
埃よけの布がかけられていたものの、長年淀んだ空気の中に放置されていたその絵は所々絵の具が剥げていたり煤などで汚れてしまっていた。元々の絵が綺麗であっただろうことが伺えるだけに、そのままにしておくことを忍びなく感じたギャリーが絵画の修復を施し始めて半年した頃、

『…この絵、アンタが直してくれたの?』
「・・・・・・・・・・へ?」
『ふ〜ん、腕はまぁまぁね。居心地は悪くないけど、最高じゃないわね。もっと精進しなさいよ。』
「…え、絵が…絵が…しゃべ…」
『なに驚いてるの?』
「普通驚くわよ!!絵が…絵がしゃべってるのよ!?って、アタシも何普通に返事しちゃってるのよ!」

今まで向き合っていた絵の中の少女が閉じていた目を開いたかと思ったら、ふてぶてしいまでのもの言いで、それでいてかなりフレンドリーに話しかけてきたのだからギャリーの驚きようは半端じゃなかった。




最初は夢かとも思った出来事も、目の前で絵から抜け出て半透明状態で浮遊する絵の中の少女を目の当たりにすれば否がおうにも信じざるを得なくなった。その後、動く絵画“メアリー”との奇妙な共同生活の中で彼女から聞かされたのは前の入居者である画家・ゲルテナという人物、そして彼が作った“怪異”を引き起こす作品の数々についてである。

ワイズ・ゲルテナは美術史の中でも鬼才と呼ばれた稀代の天才画家であり、既に故人でありながら未だにその作品は根強い人気を誇っていることで有名な人物である。しかし、天才である反面かなりの変わり者でも通っていたと聞く。
そんな彼が生前澄んでいたアトリエの1つが今回ギャリーが借りたこの部屋であり、特に強い“怪異”の力を持つメアリーのすみかでもあった。

「…つまり、この部屋に住む以上アンタと一緒に生活しなくちゃいけない…ってワケ?」
『勿論。』

あっさりと、そしてきっぱりと言い放ったメアリーはとても爽やか且つ惚れ惚れするような絵が居であったのに対し、ひどく打ちのめされた様子のギャリーはその後メアリーの怪異調査…と言う名のワガママに振り回されるハメとなる。



 
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