Ib

□廃屋の少女
4ページ/7ページ




今回の廃屋探検もそのワガママ基怪異調査の1つだ。
本体が絵であるメアリーは自由に外に出ることはできない。つまり、彼女を部屋から出さなければこのような怖い思いをする必要などないわけだが、そうすれば彼女からのやかましい連れて行けコールに悩まされる上に仕事にも差し障りが出る。…つまり、本人の気が済むのであれば好きなだけさせてやれば仕事の邪魔だってしないからという妥協案の末の選択であった。

「…う〜ん、此処でもないみたい。それに二階からの『声』が小さくなってる…一階に移動したのかしら」
「え!?コレで終わりじゃないの?」
「そんなわけないでしょ?幽霊屋敷の正体がゲルテナの作品であることに間違いは無いんだから、その作品自体を探し出して連れて行くまでは帰らないわよ!」
「う〜そ〜…」

人の手入れがまったく入っていないとはいえ、元は資産家が住んでいたという屋敷だ。中々の広さを有している。
真っ先に二階へと上がって行ったため、直ぐ終わるだろうと高を括っていたギャリーはメアリーの一言に落胆した。まさか、屋敷中を見て回る羽目になるとまでは考えていなかったからだ。





時間が経つにつれて暗闇が屋敷の中の空気を書きかえるようにジワジワと侵食していくような気がする。
風が揺らすカーテンから、少しだけ開いた立てつけの悪い扉の隙間から、居る筈のない視線を感じる気がして、ギャリーは薄ら寒くなる体をそっと撫でた。

「…一体どこまで行くのよメアリー。」
「もう少し…さっきっからこの辺で妙な違和感を感じるんだけど、イマイチはっきりしてなくて分かんないの。ねぇ、ギャリーなら分かるんじゃない?」
「具体的な事が何も分からないのに分かる?も何もないじゃない。…まったく、この辺って言われてもねぇ…暗くってよく見えないわよ。」
「でも、此処に入った時から聞こえる声はこの辺から出されてるのよ?きっとココに居るわ!それにギャリーだって早く帰りたいんでしょ?」
「そりゃ…ね。」

メアリーが先ほどからしきりに気にしているのはなんの変哲もないタダの行き止まり。
崩れかけたのか、通路のあちこちには木材の切れ端だったりコンクリートの欠片が散乱しているが特別違和感があるわけではない。
それとも人間には分からないような違和感なのか?メアリーは確かに見た目は人間に近いが本体は絵画と言う幽霊と妖怪を足して2で割ったような存在だ。

「…ん〜、壁はコンクリートみたいね。壁紙は相当古いわ…剥がれ掛けてる。」
「あ、落書き発見。ハートマーク付きの相合傘よ!暇人〜」
「…人に聞いといてその態度はなんなのよ!!まったくアンタは…」

メアリーの気にしていた行き止まりを調べるギャリーをよそに肝試しに来た連中の残した落書きを探して面白がる彼女の姿に一気にやる気を削がれてしまった。
確かに、よく見ると周りの壁紙にはマジックやらスプレーなどで様々な単語で落書きがされているようである。思い返してみれば二階にはこのような落書きなどが一切見当たらなかった。おそらく一階の一番奥という場所が到達地点ということなのだろう。

「まぁ、二階より暗くて怖くはあるわね…。でもだからってこんなに落書きだらけにして………」

壁をそっと掌でなぞると指先に触れる何かヌルッとした感触に、ギャリーは思わず鳥肌が立ってしまった。暗くてよく見えないが、先日きた肝試しの連中が残した落書きが生乾きのまま放置されているのではないかとも一瞬考えたが、どう考えても今指先をかすめた感触は生乾きというには違いすぎた。

「…メ、メアリー…」
「…気づいた?」

先ほどまでのはしゃぎようはどこへやら。一転して真剣に壁を睨むその姿にギャリーは再び暗い周囲を見渡し、今度こそ悲鳴を上げた。

「―――ギャアアア!!!!」
「うっさい!」
「だ、だって…何よ、コレ…さっきまでなにもなかったじゃない!」
「コレが怪異の正体…コイツは見覚えがあるわ…救われない子供の魂の慰め役、暗闇を好むこの作品のタイトルは…『深海の世』」
「深海の世…?子供の魂って…」
「この屋敷に昔住んでた資産家の一家ってどうなったの?」
「…確か、夫妻は事故死して一人娘だけが残されたけど…詳しいことは何も。何せ何十年も昔の話だし…」
「じゃあ…もしも、その一人娘ってのがココに居るとしたら…?」
「…ココ…?」

 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ