Heaven's Lost Property
□そらのおとしもの
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ここは空美町。
人口7000人の小さな町。
取り分け名物などもない。あるとすれば、神社前にある物凄く大きな桜の木と、農作業をしているおばあさんの笑顔くらいだ。
そう、一言で言えば平和。取り立てるほどの出来事も特に無いような、そんな平和な町。
小鳥の囀りが心地好く聞こえている、穏やかな朝。
少年は眠っていた。ちなみに、今起きなければ遅刻は免れないだろう。
しかも、不幸な事に少年は目覚ましをかけていなかった。
かけていなかったのだが、幸運な事に隣から、
ぎゃあああああ!!
という悲鳴(めざまし)が鳴り響いたため、何とか起きる事ができた。
『ふぁ……、またか。ったく、うるせぇコンビだこと』
ねみぃ、とあくびをしながら少年は下の階へと降りていった。
中学二年生にしてはなかなか高い身長で、スラッとして容姿端麗の少年、天神輝は一人暮らしをしている。
詳しい説明はまた今度、にしておき、核心を言うと、両親は海外出張をしている。
そのお蔭で天神は家事スキルが高い。軽く料理は作れるし、洗濯に掃除、買い物。家に居て、やるべき事は全部一人でやっている。
だがそれを嫌だと思ったりしていない。むしろ日常がそれだから、自分に手足が付いてるのが当たり前だと考えているように、それらも当たり前だと思っているのだ。
天神はパンをトースターで焼き、フライパンで目玉焼きとウインナーを焼いた。
『うしっ。今日の朝飯完了』
食べ終わるといつものように支度をして、いつものように家を出る。
その前にインターホンが鳴る。返事をするとドアが開いて、長い銀髪の頭がひょっこりと現れた。
長く綺麗な銀髪に、透き通るような白い肌、翡翠のような碧眼。見た目はバリバリ外国人な日本人だ。
「いっくん用意できたぁ? 行こ?」
いつもと同じ風景。
最近なんだかスリルが足りない気がする。ドキドキもワクワクもしない。平常で正常で平和な日常。
(たまには何か、スリルがあるもんが起きればいいのに)
こんなことを思ったからか分からない。
だが、ただ一つ言える。
きっと俺は今日を忘れない――