Heaven's Lost Property

□The_Conquest
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「トモちゃーん、私今日日直だからもう行くよー」


天神は、昨日と同じく幼なじみ達の声で、目を覚ました。


「いっくん〜、私もそはらについてくからぁ〜。ちゃんと学校来てねぇ!」


二、三回はっきりと瞬きをすると、ため息をついた。なんというか疲れてしまった。


天神は右手で頭を掻こうかと手を挙げると、ジャラ、と何やら鎖が擦れた時のような音が鳴った。


なんだろうと思い、欠伸を抑えて右手に視線を向ける。案の定そこには、感じた音の通りのモノ、鎖が巻かれていた。


『あ……れ?』


ポカンとしつつ、鎖の行く先を辿って行くとそこには、


「おはようございます。マスター」


羽の生えた少女が座っていた。


(あー………、そういやぁそうだった…)


天神は昨日の事を思い出し、真剣に悩みだした。




――*――


―昨夜―


『…………、』


天神は無言のまま手に巻き付いた鎖を、ジッと眺めていた。


いまいち状況が理解できない。状況は整理してあるし、結果がコレだという事は認めよう。


だが、突然空に穴が空いたと思えば羽が生えた少女が落ちてきて、瓦礫が降ってきて、いつの間にか空を飛んでいて、そして今にいたる。


こんな事、よっぽどおかしなヒトくらいにしか『理解』はできないだろう。


天神には適当に理由づけて理解したふりなど、そんな
"素晴らしい"事などできない。


『……何だ………コレ?』


左手で鎖を解こうとするがはずれない。どういう原理で絡まっているのか全然わからない。


必死にぐいぐいと引っ張ったりしたりしてると、少女の首輪から鎖がでているため、逆に座っているイカロスと名乗った少女の方へ引っ張られた。


イカロスは、あ……、と零した。天神はそのまま抱き着くように倒れた。


『―――ッ!!!?』


何やら頬に柔らかく、温かいものが当たっている。それがイカロスの胸だということを理解するのに時間はかからなかった。


天神は慌てて起き上がろうとすると、


「これは驚きだ! よもや輝がそんなにも積極的だったとは!!」


「……お前もやっぱり好きなんだな、おっ―――」

『うるせぇ!!!! ちょっと待てって!! この状況見てその反応ですかぁ!?』


いつの間にか、守形先輩と智樹がすぐそこに立っていた。


『つぅーかどうにかしてくださいよ……』


「ウーム…。とりあえずこんな生物見たことも聞いたこともない。ただ一つ言えることは―――」


「言えることは?」


守形はそこで眼鏡のブリッジをクイッ、と指で上げると、




「彼女は新大陸の住民だ!!」




『何でそうなんだよっっ!!』


あまりにもまのぬけた守形の言葉に、天神はついついツッコミをいれてしまった。



恐るべし、守形英四郎!!



「この鎖も今すぐは外れんぞ」


「そうなんすか?」


(…嘘だろ絶対……、んな事わかるわけがなかろう………)



「フム…、時に輝。お前、家に御家族は?」


守形の言わんとする事に気づき、何やら嫌な汗がでてきた。


「ん? 輝の家っすか?確か今は一人じゃなかったっけか? なぁ、輝」


天神は心のなかで、ぎゃああああ、と絶叫した。終わった。確実に終わった。


『そ、そう…だな……。今は確かに海外出張で……いねぇんだが』


そう言った途端に、守形は自転車に素早く乗り、じゃっ! と言い帰ろうとした。


『って、オイ!!!!』


「御家族がいないのなら問題なかろう。どうだ、しばらく共同生活を楽しんでみては」


『問題ありありだ、バカヤロー!!!! 無茶言うんじゃねぇ!!』


「それから後日、レポートを提出するように」


『ふっざけんなぁー!!』


「…………いやぁ、輝もこれから大変になるな」


頭に響くのは、完全無欠に他人事な智樹の声だった。


――*――

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