Heaven's Lost Property

□The_Sailing
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(こ、これはマズイ……。何がマズイって……、いやマジでマズイんだって! 天神輝、たった三話目にて死亡の危機!!)





キラキラとした朝日。爽やかな朝。小鳥の囀り。ベッドで仰向けの天使。その上で四つん這いな天神。春原の殺意。滴る冷や汗。




今の状況を端的に表すとこんな感じになる。



『……お、おぃ、はる? 違うぞ……、お前が想像しているのと現実は、断じて違うぞ。俺はただ鎖をとろうとして、そんで…………何故か……、』



天神視点では確かにそうなるだろう。だが、それはあくまで自分の視点だ。



第三者、つまりは天神を起こしにきた春原からみてみれば、見知らぬ少女を天神が襲いかけている。しかも鎖に首輪で、一体全体何なんだ、となるのは普通ではないだろうか。



故に、天神の弁明は無効。晴れて死刑だ。




ジリッ、と春原が近づく。天神は何とか動こうするも、恐怖で体が動かない。



『ま、待て! は―――』







言いかけて、途絶えた。



春原が放った殺人キックは見事に天神の腹にクリーンヒットした。



ドウッ! とひどく鈍い音が静かな朝に鳴り響いた。














――*――




モダン風な家の居間。その家のテーブルには、ほくほくと湯気が立ち上る朝ご飯が置かれている。



「―――で、旧式の転送装置やらについてなんだが」



だが、何かおかしい。いや、明らかにおかしい。



『……なぁ先輩、なんでアンタ普通に飯食ってんの?』



そう、守形がいるのだ。天神は許可したつもりはない。故に不法な侵入と言える。



「フム、みそ汁はもう少し薄めにした方が良いな、腎機能の低下を招く」



「はい」



『オイ、しかとか? 人の話をきけよ』



やはりこの変態と関わったのは失敗だった、と天神は頭を抱えた。



(それもこれも全部あの馬鹿のせいだ)



天神は学校に着いたら理不尽な報復活動をすることに決めた。



守形はカードを持ちながら、



「今いちコレが何なのか掴めてなくてな。輝の話だと何やらいろいろできるようなんだが……」



「このカードは、いわゆる転送装置になっておりまして、シナプスから様々な機器を取り寄せます」



『それはもう言ってあるぜ? 聞きたいのは、最新式と旧式の差っつぅわけ』



「はい、最新式とは違い、旧式は決められた一つしか呼び出す事はできないんです」



「? つまり?」



『オイ待て、お前どっから湧いて出た』



いつの間にか天神の隣には智樹が座っていた。これまた不法な侵入なわけで、



「カード一枚につき、一つの効果しかないわけだな」



はい、とイカロスは返事をした。智樹は一枚のカードを手に取った。



(あれ? コイツらマジで人の話聞かねぇなぁ)



「じゃあこのカードはどんな能力なんだ?」



「そこなんですが、旧式のカードについては能力が不明なものが多く、使ってみなくてはどういう能力か………」



天神はカードを一枚取ると、少し苦い顔をする。このでたらめなカードは、能力が不明。



『不用意に使うとヤバそうだな……』



そう呟くと、玄関が開いて、聞き慣れた声が聞こえた。



「ともちゃん、輝くん、咲ちゃん! 遅刻しちゃうよ!?」



「あー! ホントだ、早く行くよいっくん!」



ああ、と返事をし、急いで玄関を飛び出した。



出発。



学校への距離は、近いとはけっして言えない。しかし、天神はバスケで培った体力のおかげで、学校まで全力で走る事ができる。と言っても、これをすると一日中机に伏す事になるため、絶対にやらない。



ジャラッ


『あと何分くらい?』



「七分、くらい!」



「余裕そう、だな輝」



ジャラッ


『まぁな、こんくらいは余裕のよっちゃんってな』



「と、ともちゃん、ちゃんと、走ってよ!」



「きっつぅ〜、いっくん〜、おぶってぇ」



ジャラッ


『きついなら喋んなよ馬鹿。そんくらい小学生でもわかるはずなんだけどなぁ』



「むぅ、何、かな、その言い方ぁ!」



ジャラッ


『ん? 何かダメだった? ってさっきからジャラジャラジャラジャラうる―――ッ!!!』



言いかけて止まった天神の目に映るのは鎖に繋がったままついて来ていたイカロス。



『しまったァァァァぁぁぁああああ!!!!』



「ちょっ、いっくん!!?」



叫び声をあげながら天神は全速力で家へと帰った。



帰宅。



途中やけに見られている気がしたのはこのせいか、と口に出す前に、鎖をどうするか考える。


『鎖。そぉだよ、鎖だよ。ったく、どうしっか』



「あの……、この鎖なら消したり、いくらでも伸ばしたりできますが」



『……、』



言いながら鎖が消えた。そういうことは初めに言えよ、と思ったが、今は何より学校だ。



『ったく。オッケー、んじゃ行ってくる』





出発。





全速力で農道を駆け抜ける。商店街を駆け抜けたところで、天神は違和感を覚えた。




後ろを振り返ってみれば、鎖はないものの、少し飛んでいる天使がいた。



『……、』



商店街を駆け抜ける。全速力で農道を駆け抜ける。






帰宅。





『ここにいろ、ついてくんな』「はい」




『ついて、くんな』
「はい」




再び


出発。






『はぁ、クソッ、さんざんだ、さんざんだよ! ちくしょぉぉぉおおお!!』








誰もいない農道には元気な少年の叫び声が響き渡る。






今日も空は綺麗な蒼だった。


 
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