Heaven's Lost Property
□The_Christmas_misfortune
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今だにトラックが事故を起こしたような轟音が鳴り響く山中。ひらひらと舞い落ちる白い結晶は、何故か場違いな雰囲気を醸し出している。
ツキュン! と機械音を鳴らし、水色の長いツインテールのエンジェロイド――ニンフの、イカロスの頭をわしづかみにした手の平が光りを発した。
「――スキャン開始」
機能プロテクト99%正常
可変ウィングプロテクト72%正常
記憶域(メモリー)プロテクト100%正常
思考制御(エモーショナル)プロテクト100%正常
「……ぷ――クスクスクス……。なるほど……、それで瞳の色がそんな緑色に変化しているのね。お笑いだわ! 記憶だけでなく、感情までプロテクトをかけられていたなんてね」
たまらない。といった様子で笑い出したニンフ。
だが、そんな反応が自分に向けられているにも関わらず、イカロスには何も理解することができなかった。
(だ…れ……? この人は……だ…れ……?)
そんな疑問が浮かぶだけで、
「まるで―――人形ね!!」
再びニンフの手が光ると、ドゴン!! 二度、三度とイカロスは岩壁に頭を打ち付けられた。
「空の女王(ウラヌス・クイーン)と恐れられ……。シナプスを震撼させた―――」
もう一度、
「貴様が!!」
ドゴォォン!!
イカロスはニンフの放った蹴りにより、十数メートルもの距離を吹き飛んだ。幼いその体躯のどこに、その力があるのか、まったくわからない現象だった。その事実はやはり、彼女もまた、イカロスと同じエンジェロイドだということなのだ。
「『空…の……女王』…?」
今だに現状を把握できていないでいるイカロスが、雪に埋もれながら小さく呟いた。
「私は愛玩用エンジェロイドタイプα―――」
「はぁ? 愛玩用? あなたが愛玩用? あんまり笑わせないでよ」
ニンフはクスクスと笑いながら、邪悪な笑みを浮かべ、イカロスの頭を踏み付ける。
「『シナプスに連れて帰れ』ってマスターに言われてるの。おとなしく―――ついて来るわよね?」
「わた…しは……、愛玩用エンジェロイド……」
「―――残念だわぁ」恍惚な表情を浮かべながら、
「だったら"もう少し"オシオキしなくちゃ」
一度は鳴り止んだ轟音。
そして再び、雪が降りしきる山中に、轟音が鳴り響いた。
――*――