とある魔術の虚構空間

□Index-Librorum-Prohibitorum.
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七月二十日


この日は学生たちが待ちに待った夏休み初日、一八○万人もの学生が能力開発のために過ごしているここ、『学園都市』は朝の静寂に包まれていた。








『……あちぃ、…………いや、こんなモンだってわかってたんだけどな』


とある『学園都市』の学生寮の一室で上条到は呟いた。


『いや、ね…………、わかってましたよ、夏休みだからって、何かが変わるわけじゃないってことくらいさぁ』


気持ちいいほどに空は晴れ渡っているのにも関わらず、妙にテンションが低いのもそのはず、昨日の夜の落雷のせいで電化製品の八割が殺られてしまったからだ。


それはすなわち、冷蔵庫の中身は全滅ということであり


非常食のカップ麺を台所へぶちまけ、コンビニでなんか買うかと思いたったがカードを足で砕き、さらに追い討ちをかけるかのように担任から「上条ちゃーん、バカだから補習でーす♪」とラヴコール。




『………不幸だ。なんか……、今日、めっちゃついてねぇ』


もはやギャグのようなついてなさだった。上条は少々不幸体質だが、ここまでひどい事はまた珍しい。


「今日の第一位は天秤座のあなた、今日のあなたはいつもと――」


『はいはい、そうかそうか』


上条は運に頼ることは(あまり)しない。それゆえに妙に行動力があるのだが。



『はぁ……、空はこんなに青いのにお先は真っ暗♪』


自分で言いつつも、鬱になりそうな気がして。


『……さ、さぁて布団でも干すかな、いやぁ今日はいいてんきだなぁ』


ははっ、と乾いた笑いをこぼしつつ布団を干そうとして上条の動きが停止する。



『……………?』


布団を干す前にもう干されていたのだ



『はぁ!?』



そう、白い女の子が


『…………ん? えっと……、意味わかんねぇ。つぅかシスターさん? ………いや、妹ではなくて』


もはや自分で何を言ってるのかわからないくらい、上条は混乱していた。


それは当たり前だろう、見た目14、15の銀髪碧眼の少女がベランダに引っ掛かっていたのだから。


(ちょっ、うわっ!)


その銀髪シスターは、顔を上げ、

「おなかへった」

『………………………………………………』

「おなかへった」

『…………………………、』

「おなかへった」

『…………、』

「おなかへった、って言ってるんだよ?」


『ン? えっと?』


ベランダに干してある女の子を眺めながら、


『ナニ? ひょっとして、君はこの状況で自分は行き倒れです、とか言っちゃったりしちゃいますか?』

「倒れ死に、とも言う」

『ははっ、いやぁおっかしいなぁ、違う違うこんなリアルあってたまるかっつぅの!』


そんなことを言いつつ、徐々にしかし確実に現実逃避していた上条を、銀髪シスターが呼び戻す。


「お腹いっぱいご飯を食べさせてくれると、嬉しいな」


と、なんの邪気のない笑顔を向けられた上条だったが……なんだこの図々しさは、と機嫌が悪かったのも相まって、普段ではありえない行動にでる。


(この子には、何処か遠い所で幸せになってもらおう)と、不気味な笑みを浮かべながら、全滅した冷蔵庫の中身の一つである焼きそばパンを差し出した。

『こんなものでよかったら』


そんな上条の心情などつゆしらず、


「ありがとう、そしていただきます」


バクンッ!!という音とともに焼きそばパンが、大きな口に入っていった、上条の手とともに。


そして、とある学生寮に上条の叫び声が響き渡った。


――*――

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