Heaven's Lost Property
□そらのおとしもの
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「おはよ、いっくん♪」
『ふぁ〜、おふぁぉ』
眠いの? と天神の顔を覗き込んでいるのは春原咲。学園トップクラスの美女で、誰とでも分け隔てなく接する事ができる。そんな明るく優しい性格の持ち主故に、学園では男女問わずに人気者なのだ。
そんな春原とは空美町へ引っ越ししてきて、転校時期が一緒だったため、初めて仲良くなった。
少し歩くと、見慣れた二つの背中姿が見えた。少し足早に二人の元へと近づく。
『―――よっ』
「おっはよぉー」
「おう、よっ」
「おはよー、輝君に咲ちゃん」
この二人は、小さい男の方が桜井智樹。中二とは思えないほどの発育が見られる女の方が見月そはら。なんだかんだで天神の幼なじみだ。
『っつぅか、そはらは何怒ってんだ?』
「トモちゃんがバカなんだもん!!」
「違う、違うぞ!? 不可抗力なんだ、仕方ないんだよ。輝だってわかるだろ? 男なんだもん!!」
あごに手をあて、天神は悩むと手をポンと叩いた。
『ああ、なるへそ。そゆことね、まぁ、俺にはあんまねぇな、んなこと』
「ナニッ!! いや、でも――」
『――あぁ仕方ねぇな。ってことだ、滅殺しても構わんがほどほどにな、そはら』
「まったく、いっくん? 朝っぱらから変な話しなぁいの」
そ、そんなぁぁ、という哀れな声を無視して校門に近づいた。
校門はなんだか騒がしかった。
「たいへん、たいへん!! がが、学校で飛び降りだって!!」
「『飛び降りぃ!?』」
思わず二人でハモってしまった。
校門をくぐると、どうやら本当のようで、みんながみんな、やめろー、などと声をかけている。
「ホホホ本当だ!!どうすんだ、どうすんだ!!」
「どうするの、どうするの!?」
『………ほっとけば、いいんじゃねぇの』
すると、そはらが呟いた。
「…………あれ?守形先輩じゃない?」
『「守形先輩?」』
「アレだよいっくん、『新大陸発見部』の変わり者で有名な先輩」
どうせ茶番だ、そう解釈した天神は、静かに足を進めた。その後ろを春原は鼻歌混じりに歩いていた。
教室に入ったあたりで、騒がしくなったのを聞く限り、どうやら飛んだようだ。
『いいバカじゃん』
嫌いじゃねぇな、口の中で呟いた。あっ! いっくん!? と春原が言っていた気がしたが天神は机に突っ伏した。
――――――――――――――
どのくらい時間が経ったのだろう。
天神は、
「トモちゃん!!」
という大きな声で目を覚ました。どうやら授業は終わっているようだ。というか、起こしてくれてもいいじゃん、と半分本気で思う。
起こされるのは嫌だが、あまりにもノータッチというのもまた、少し悲しいのだ。
「起こしたもん! いっくんが起きなかっただけだし!」
『――んで分かんだよ…』
「いっくんの考えてる事なんて私にしてみれば簡単簡単」
「――――」
「――――」
二人の会話はまだ続いているようだ。天神は、ふと智樹へと視線を向けると、智樹は涙を流していた。
(例のアレか……)
「――――バカ言うな!!病院でなんて言うんだよ。『夢見て泣きます』って、俺は夜眠れない子供か!!」
『行ってみたら?お前、脳の病気かもよ?』
「び病気!?いや、いやいやいやないから。ないよ、な?」
『さぁ?』ニヤリ
「そのニヤリがきまっててムカつくんだよ!!」
二人でいつものように絡んでいたら、そはらが思いついたように、そうだ!! と言った。
「じゃあ守形先輩に相談してみたらどうかなあ?」
『「………は?」』
「守形先輩って、アレでもすごい物知りなんだって」
「あー! 面白そう♪」
それこそ嬉しそうにそはらは言う。
「ね?そうしよトモちゃん!!」
「………だ……、ダメだダメだダメだダメだ!!」
「えー、どうして?」
「あんなトラブルの固まりみたいな人間に関われるか!!」
智樹はそこで一拍おいて、
「大体何だよ『新大陸発見部』って!?」
それにはすごく同意するのだが、やたらと智樹は嫌がっている。それを見て、天神はどうしても行かせたくなってしまった。
「俺は平和な毎日を送りたいの!!」
「ダメ?」
「ダメ!!」
「そう…………わかった」
そはらは黙ったが、どうしても黙っていない部分があった。そはらの十八番、殺人チョップ。
天神は智樹の肩を叩き、親指でクイッ、クイッ、とそはらの方をジェスチャーする。
『お前、行かなきゃ………。死ぬかもな』
ケラケラと笑う天神に、智樹はビクッ、とした。表情を伺う限りでは諦めたようだった。