Heaven's Lost Property

□The_Conquest
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――*――




と、今に戻るわけだが。



ただいま天神輝、布団を頭から被り、大絶賛後悔中であります。



「どうしましたマスター?」



『いや……、やはり智樹に関わるとろくなことになんねぇなぁなんて、ね……』



まぁ気にしたところで何にもならない、と布団を退かす。


と、



「マスター。楽しめることをなんなりと……御命令下さい」



『……え、あ』



天神の顔を下から覗き込むようにイカロスが見ていた。ただ、天神がかなりうろたえる程に近いのだ。



八割近く露出している胸など、一応健全な男子である天神には些かキツイものがある。


「欲しいものとかでもいいんです。私達エンジェロイドは…、マスターを楽しませるためだけに造られたものですから…」



(欲しい、もの? ていうか近い…、イイにおいが……)


『か……』

「か…?」












『金。かな、うん。そう、だなええ、無難だし?』


「お金……、ですか…?」


天神の心臓は今、はち切れんばかりに鼓動を打ち鳴らしている。こんな、かわいくて、キレイで、あまつさえ甘くイイにおいがする女の子に大接近されているのだから。


今はお得意のポーカーフェースでなんとかなっている(それでも自分でもわかるくらい目がテンパっている)が、ほぼオーバーヒート寸前なのだ。



(ちょぉぉおおい!! っぶねぇ!!クソッ、無駄にドキドキしちまったじゃねぇか………。しっかりするんだ天神輝!!)



『自己暗示』をして、天神はなんとか気持ちを落ち着かせた。



『なーんてな、冗談冗談。金なら今ある分で足りるし、』



「一千億ほどでよろしいですか……?」




『でも、そうね。そんだけありゃ一生遊べるわね』




………………………………………………………………………、



『はぃ?』




すると、イカロスはカードみたいなモノをおもむろに取り出して、



「転送(トランスポート)……」



そう呟くと、突如にカードが光だして、細かいブロック状になったかと思えば、羽のついた電卓みたいなモノに"変化"した。



その光景を見て、天神は絶句した。



(ただのカードが……、電卓になったぁ? 待てよ、となると原子配列を無視してますってか? もしそうなら簡単に核融合でも起こせるんじゃねぇの!?)


そんな事を考えていると、イカロスは電卓を押しはじめた。


ピポパッ、と軽快な音を鳴らした後に、チーンという電子レンジの音みたいなモノが鳴り響いた。


すると、天神の頭上からありえない量の札束が降り注いできて、ぐはっ!?と天神は潰れた。


天神は潰れながら、自分の上に乗っかっている札束を掴むと、ゆっくりと顔を上げてイカロスを見た。




(――――マジッ!!??)




「他に御命令はありませんか?マスター」


イカロスの手にあった電卓らしきモノは、パチンッと音を鳴らし元のカードに戻っていた。



『ちょぉぉおおっと待ってぇ!?はい!? 何、何したの今――――そのカードちょい貸して?』



「そのカードは……、こちらの言葉で言うと転送装置なんです」



『転送、装置……?』
(なるほど、なら原子配列変換をしたわけじゃねぇのか。ってか転送??)



「はい、マスターの御要望に応じて『シナプス』から必要な機器を取り寄せるんです」



転送装置という言葉にもう度肝を抜かれている天神だったが、"シナプス"という言葉は一度も聞いた事がないためどうにも引っ掛かった。というよりも、好奇心が天神を駆り立てていた。



『…「シナプス」?』



「シナプスが何かについては私の中にも情報がありません」



何故? それはおかしいだろう。恐らく、イカロスはその"シナプス"というトコロから落ちてきたはず。なのに"シナプス"の事を知らないなんて。



「私も先日マスターに目覚めさせて頂いたばかりですし。そのカードについてはあらかじめ私の中に情報があっただけで…」



そこで一息ついて、イカロスは言う。




他にわかることはただ一つ――――



「―――私は愛玩用エンジェロイド『イカロス』 マスターを楽しませるためだけに造られたシナプスの製品です」



天神は愕然とした。目の前に確かにいるこの子が、自分自身を『製品』と言った事に。


話をしている限りでは確かに感情はあまり感じられない。だけど確かに温かいのだ。





それはヒトと話をしているのと同じなはずなのに―――



『―――製……、品?』


(ダメだ……、分からない事もおかしな事もありすぎる)




整理してみよう。




彼女は昨日の夜に天神の元(というより大桜の近く)にまさしく降ってきた。




そして自分自身を『愛玩用エンジェロイド』と言った。エンジェロイドとは一体なんなのか。メイドロボみたいな感じだと解釈してもいいのだろうか? 分からないからそうしておこう。




彼女は天神をマスターと呼んだ。これは恐らくだが、飛んでいた時に右手に巻き付いた鎖が原因だと思う。




すると彼女は、エンジェロイドというものは『鎖』によって遣える者を決められ、その者は彼女にとってマスターとなる。現状では天神という事になるのだが。



(そしてマスターの命令は絶対、という事か……。だけど問題はもう一つ)



これこそが一番の疑問点。




"シナプス"というモノの存在。




あの転送装置(カード)はシナプスから機器を取り寄せるモノと言っていて、彼女自身がシナプスの製品と言っていた。



だけどよく考えてみる。



カードの情報は彼女の中にあらかじめ入っていたと言った。



ならカードの事、シナプスの存在。彼女の中に情報があるというのに、何故シナプス自体の情報がないんだろうか。




それは非常におかしな話だ。




シナプスの製品とされる(考えたくもない話だが)彼女が、何故自身が造られた場所を知らない。シナプスの機器を扱うはずなのに、何故シナプスの情報が無い。




ここから考えだされるモノは、




(彼女が機械に近いモノなら、記憶情報の意図的な操作、か…)



天神は右手の手の平を額に当てながらため息をついた。



久しぶりにこんなに頭使った、そう呟くと、イカロスに向き直り、



『んで? 他には何ができんの?』


「何でも……」


『何でもォォ!?』


オイオイ、と思わず零した。



『何でもって、例えば……、時間を止めたりも?』



半信半疑でイカロスに尋ねてみるが、イカロスは「………はいできますが」と即答した。
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