Heaven's Lost Property
□The_Sailing
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――*――
今日、最後の授業が終わり放課後になった。春原は斜め左前の席を見る。そこには、今日一日中机に伏していた天神輝がいた。
春原は、チャンスだとばかりに天神へと近づく。
「しっかし、いっくんよく間に合ったねぇ。いっくんは鈍まな亀さんだからぁ―――」
ニコニコしながら、春原は机に伏している天神に言う。
きっといつも攻められてばかりだから、ここで仕返し! とでも考えているのだろう。
『……、まぁその鈍まな亀さんに、いともたやすく抜かれるウサギさんもいるんだけどな』
だが弱い。春原は一回も口で天神に勝ったことはないのだ。
「うっ、いっくん、あ、汗ダラダラでみっともなかったねぇ」
『そりゃな、全速力できたから。まぁ、ウサギさんには無理だったろうけど』
「そ、そうだとしてもぉ、汗かかないんだしいいじゃん」
『遅刻にはなるけどな』
やはり春原は天神には勝てなかった。明らかに最後は誘導されていた。
『お前じゃ俺には勝てないよ。ムリムリ』
机から起き、肩をすくめながら言う天神。
「ねぇ、咲ちゃん達も一緒にVショップ行こ?」
「ん、買い食い? 別に私は全然大丈夫だよ。いっくんは?」
『Me too』
そはらが言い、春原は、それじゃ、と言い天神の腕をぐいっと引っ張った。半強制的に立たされた天神は、むすっとしながら春原にデコピンを一発くらわす。
「ふぇ!? な、なんでぇ?」
『何となくだよ、何となく。気にすんな』
「もう、いいから早く行こ! 早く早くー♪」
「あんま急ぐとコケるぞー」
智樹がそう言うと、ずべっ、とそはらがこけた。
「ホラ、言わんこっちゃない」
そはらは小さく、あっ、と呟いて自分の状況を確認した。
言うならば、コケた後に有りがちな、というかお約束とも言える光景となっていた。ようはパンツが丸見え。
「……、」
『……、』
「……、」
そはらは、ババッと体勢を整え、同じく智樹も、ババッと顔の向きを違う方へと向けた。
「見た?」
「『見てない、見てない』」
男二人に向けられたその言葉に、天神と智樹はブンブンと頭を振って否定する。
実際はバッチリ見てしまっていた。なんと言うか、残念な光景を。
「なら、いいけど……」
確かにパンツはコンニチハしていた。本来、その光景は男子にとっては眩しいものだ。しかし、そんな男子の幻想をたやすく打ち砕き、残念な光景とまで言わせたそはらのパンツ。
そこには犬のプリントがでっかくされていた。
「そはらも小学生じゃないんだから――――」
と、智樹が思ってる事をついつい呟いている、その後ろでは、天神と春原がピッタリと肩をくっつけていた。
『……なぁ、はる』ヒソ
「……な、なに?」ヒソ
『アレ、どう思う?』ヒソ
「えっ、まぁ、……うん」ヒソ
『ど・う・お・も・う?』ヒソ
「……、ちょっと……」ヒソ
『だよねぇ』ボソ
「だよねぇ」ボソ
『はるは?』ヒソ
「? 何が?」
『パンツ』
「へっ?」
『えっ!? まさかアレと同じような感じですか!?』
「そ、そんなわけないじゃん!! あんなのじゃないもん!! ピンクの――……あっ」
ついつい大声をあげてしまった春原は後悔する。自分のパンツを自己申告したのだ。これを公開処刑と言わずして、何を公開処刑と呼ぶのだろう。
『へぇー、ピンクの、ねぇ。いいじゃんいいじゃん。はるってば可愛いなぁ』
ニヤニヤしながらそんなことを言う天神の口を、何とか押さえようとする春原の顔は、茹蛸のように真っ赤に染まっていた。
おそらくこの校内で、春原咲をここまでテンパらせる技術の持ち主は天神くらいだろう。それは天神のアドバンテージが大きいのだが。
春原は天神を押さえようとする、天神はそれに抵抗する。そんな小競り合いをしていると、
きゃあ! とそはらの悲鳴が聞こえ、一瞬視界に何か飛んでいるのが見えた。
「あん?」『?』「なに?」
三人が同時に教室の天井を見上げる。
「」
『』
「」
今日二回目の三人同時凍結が起きた。今回は瞬間冷凍でも言うのだろうか、…すら付くことがなかった。
眼前に映る光景。説明がまったくつかないその光景の前では、ただただ唖然とするしかなかったのだ。
『そはらの………』
「パンツが………」
「………飛んで、る?」
アレ? 疲れてんのかなぁ、と目を擦る三人。
「トモちゃん……、その光ってるポッケは何……?」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、スカートの前の裾を下に引っ張り、前屈みになっているそはらに指摘されやっと気づく。
確かに智樹のポッケは光り輝いていた。天神は見たことがある、この輝きはきっとあのカード。
「まさか……、このカードの仕業なのか……!?」
そう真剣に呟いた智樹に、そはらの殺人チョップが繰り出された。
ぐしゃっ、という残酷な音が教室に響き渡った。
だが、カードは変わらずに、ひたすら光り輝いている。