Heaven's Lost Property

□The_Sailing
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――*――




今、天神達男陣は新大陸発見部の前で立ち尽くしていた。天神の右にはかろうじて生きている智樹、左には、食虫植物にタコさんウインナーをあげようとしていたところを、強制的に追い出された守形がいた。



というか、この守形英四郎という男は何がしたかったのだろうか、まったく理解できない。



当たり前だが守形も今の状況についていけてなかった。



天神が欠伸を噛み殺した時、新大陸発見部の部室から、ガラスが割れる音と共に、きゃあっ!? という女子の声が聞こえた。



慌てて入ってみると、へたり込むそはらと、窓の外を呆然と眺める春原がいた。



『ふぁ、……、どぉした?』



「全部、飛んでいった……」



はぁ? と聞き返す。あまりにも抽象的すぎる。



「ブルマも……、スパッツもジャージも……、履こうとするとみんな飛んでいっちゃうの」



「え、じゃあお前……、今ノーパン?」



智樹がそういうとそはらの顔はたちまち真っ赤になってしまった。



天神はと言えば、お気の毒にぃ、と完全無欠に他人事モードだ。



だが、それを聞いていた春原に詰め寄られ、天神輝は軍隊もびっくりな敬礼の体制になった。








――*――




その頃、天神の家の居間の横の和室にはイカロスが座っていた。



何故か、イカロスの頭にはアホ毛ができていて、それはピコピコ動いている。



「……、マスターが…、困ってる気がする」



イカロスは少しの間、沈黙すると、両手で持っていたこけしの頭を差し入れしていた。



「でも……、ここにいろっていわれたし……、どうしよう」




初めてのお留守番は、どうやら葛藤との戦いのようだ。








――*――




「うわーっ!!」



部室の窓からズボンが飛んでいった。



『…………ぅ、…………』



天神と言えば、口に手を当てて俯いている。



(シュール……、クソシュール……。やべぇ、ツボった。――なんで飛んでくんだよ、意味不明すぎんだろ……、くっ)

「……、いっくん」



春原は冷たい目で天神を見つめる。これは当然だろう。友達が困っているのにも関わらず、それを笑うのだから。



だが天神にとっても笑ってしまうのは当然。だって、パンツが飛んでいくのだもの。



『「履かれるだけじゃない! 俺達だって飛べるんだ(キリッ」ってかぁ? ……、ぷはっ! アハハハハ!! 無理、もう無理、腹いてぇなぁ、ちくしょう!!』



「ムッ、智樹のカードが何やら転送しだしたぞ」



爆笑する天神をよそにことが進んでいく。



何とか笑い終え、智樹達を見ると、智樹は手錠を持っていた。どうやら手錠が転送されたようだ。



何だろうアレ? と首を傾げると、天神のポケットが光り始めた。



まさかと思いポケットを探ると、そこにはカードが入っていた。そういえば急いでいたからポケットのなかに突っ込んでいた。まぁそれを天神は完全に忘れていたのだけれど。



パシュッ、と軽快な音をならしカードは天神の手から消えていた。代わりに、天神の右の手首に、真ん中に天神の瞳のような色の小さな宝石が一つ埋め込まれている、銀のブレスレットが付けられていた。



「うわぁ……、何これ? すごい綺麗」



『確かに……、何だろうな。けど最初にそっちじゃね?』



そう言い智樹の持つ手錠を顎でしゃくる。一瞬何かモニターみたいのが見えたのはなんだったのだろう。



「ん〜……、あっ、よし」



そう言って智樹はそはらへと寄っていく。何故だろう、嫌な予感しかしないのだが。



そしてソレは的中する。ガチャッという音を鳴らし、そはらの両手は後ろで拘束された。



「ち、ちょっと! トモちゃん!?……、私、今履いてないんだよ? 窓だって開いてるし、風が吹いたらどの手で押さえればいいの?」



『あっ、お前、そんな事いったら普通―――』



言う前に風が吹いた。そよ風だが、軽いスカートを吹き上げるには十分すぎる。



「うわぁぁああ!!!!」


「きゃああああ!!」



絶叫が響き渡る。しかし、天神達の目にはそはらの危ないところが映ることはなかった。






「お困りですか? マスター」






まさしく天使が舞い降りた。



イカロスのおかげで間一髪。なんとか生き抜くことができた。あれで見ていたら、春原とそはらのダブルで殺戮しにかかっていただろう。想像するだけで寒気がする。





『……Good job』



こんな言葉しかでない。九死に一生を得たとでも言うのだろうか。



「ウ、ウワワワワワ………、パ、パ………」



「パ?」



ちょこんと首を傾げるイカロス。あれ? 嫌な予感しかしないのは何故なのだろう。



智樹。嫌な予感。ああ、なるほど。これがデジャヴュか。




「パンツがっっ!!」



瞬間。何を理解したのかイカロスが動く。



「パンツですね。では、半径100m以内のパンツを全て集めます」



「……ち、ちがう!!」



『』




ここまで嫌な予感というモノは当たるモノなのか、真剣に天神は頭を抱えた。




そして、直ぐに変化が表れる。キィン、という音が鳴り、智樹はパンツに押し潰された。



「えっ!? ちょっ、まっ!! わ、わたしのパンツが……!!」



『………、ナニコレ?』



パンツの山に埋もれる智樹。



そのご感想は?



「なまああたかい…」



『……、お前……』



その時。天神は見た。






羽ばたいたのだ。







純白の鳥が………、








羽ばたいたのだ。




―――ええか智坊……、じっちゃのいうことさよく聞け……―――



智樹はそれを見ていた。
口を半分開いたまま、それを見ていた。




『おっ、久々だな智樹のじいちゃんのくだり。――つぅかイカロス、コレなに?』

「パ、パンツ。どうしよう、どうしよう」

「それは……、素粒子具現形成計算装置ではないでしょうか」




そこに何を見たのだろうか。
智樹の瞳には涙が滲んでいた。




『その、素粒子具現……、まぁアレだ、コレなんなの?』

「うぅ〜…、お嫁さんにいけないよぉ」

「通称『ガイア』と呼ばれています。それは、シナプス最高の多機能コンピュータなのですが……、使用できる人がいなくて造られなくなってしまったものなんです」

『えっ? じゃあ俺も使えないクチじゃね? っても、コレから出てきたって事はまだ可能性はあるか』



神々しき何かに、自分というちっぽけなものを教えられている。そんな表情で、智樹はひざまずくようにそれを眺めている。



「後で詳しい説明をしましょうか? マスター」

『そうだな、頼む』

「あぅ〜」

『んだよ、さっきからうるさいやつだな。ってそうかお前、パンツ…』

「…ぅん、どうしよう」

『知らん、俺に聞くな。つぅかいいじゃんその分軽くなって』





「…………、」





やはり後悔と言うものは、やってしまった後に来るものだ。なんにせよ、それは当たり前なのだが。









グシャッ!!!!



ドンッ!!!!















あの日あの時あの場所で君にあんな事を言わなければよかったと、やはり後になってから思うのだ。



 
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