Heaven's Lost Property

□The_Sinking
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――*――



パァーン………ガタンゴトン。

静かな田舎の景色が滲むように過ぎ去っていく。電車が滑らかに、着々と海へ運んでくれている。



「………、」ムスッ
「………、」スッ
「………、」チラ
『………、』ヤレヤレ
「………?」


「? 何むくれてんだそはら?」


「別に」



「………、」
「………、」
『………、』



始まってすぐに沈黙というのは実に申し訳ない。だが、それ以外にやりようがないのだ。




「その…、なんだ…、」


『いつものあの……、』


「おっきな翼はどーしたの?」



「え? 翼ですか?」



今は話を作るための材料にしてしまったのだが、天神は確かに気になっていた。しかしこの三人。妙に息が合っているのである。



「翼でしたら……、」



そう言ってイカロスはパーカーを脱ぎだした。



「私の翼は可変式となっておりまして……。ここまでなら、なんとか小さくすることが……」


『分かった。分かったからパーカー脱ぐな。こらっ』


「そ、そうだぞ! こんなとこで脱ぐな!」



天神と智樹はそう言ってイカロスを止める。言うなれば、そう。恥ずかしい。



イカロスの事は智樹に任せて、前に向き直る。



隣ではまだ、ギャーギャー騒いでいるが気にしない。まずはやることがある。



「すまん、見月」
『わりぃ、そはら』


「………、何がですか」



「………、すまん」
『………、ごめんなさい』





――*――





蒼天。白雲。



水平線と交わるその時まで。どこまでも澄んだ蒼。



海はさすがに、春原の瞳と同じような碧とまではいかない。しかしながら、その色は澄み渡っていて、一言で言うならば。



美麗。




夏と言えば海。ほとんどの人がそう言うだろう。多少、入った後が面倒だが、楽しいし、綺麗だし、夏を満喫できる。それゆえにこの時期は人が大勢いる。



砂浜にはパラソルが立ち並び、様々な水着をつけた遊泳客が楽しそうな笑顔をしていた。



「う……、わぁっ♪」



「すっごーい♪ 海。うみだよいっくん!」


『だな。しっかし、人がやたらいるな……』



天神は海に少しテンションをあげながら、鬱陶しそうに零した。彼は基本的に、人が大勢いる場所を好まないのだ。



それを知っている春原は、天神の前に行き、手を後ろで組んで覗き込むような体勢をとった。



子供を諭すような。宥めるような。優しく、温かい笑みを浮かべて。



「でもでも、せっかく来たんだし楽しもっ♪ わたし達だけしかいない。って思い込んでさ」



『まぁ……、そうだな。よし、遊ぶぜ、はる!!』



「待ってましたぁ! 了解であります軍曹!」



そこで、ちらりとそはらを見てみる。そはらは智樹を見て笑顔を浮かべている。どうやら、機嫌も直り、大丈夫なようだ。



「……、うみ?」



「ね。トモちゃん。ボート乗ろうよ♪」



「ああ…。おろ? なぁ、輝。先輩知ってるか?」



『ンァ、先輩? いねぇの?』



「………、ねぇ…。いっくん、あれ……」



そういって指を差す春原。その先を見てみると、いた。確かに守形英四郎がいた。




ウォォォォオオオオオオ!!!!



かなりの声量の歓声のその先。そこに書いてあるのは、




もっと汗(ハート)刺激的!!
大食い大会






何と言うか。シュールだ。題名が余りにもシュールかつシンプル。



「」

「」

『………、』

「………、」




「すごい! すごい少年が現れましたっっ!!」



モグモグモグモグモグモグ



「既に巨大カレー、12杯目っっ!」



モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ



「なんだあのネクタイ少年はっっ!!」



しばらく呆然とする四人。



「『いいや……、アレはほっとこう』」



息が合った。またまた寸分のズレもなく。それこそ、完璧に。



「じゃ、私ボート借りてくるね!」


「あいあ〜い……。なぁ、輝―――」



『よっしゃあ! 乗った、いただいた!』


「ふふ〜ん。わたしが勝つもんねぇ」



そういって、ダッ! と二人は海まで駆け出した。全速力で。


瞬間。天神は春原に思い切り突き飛ばされた。



『―――ッ! お前!』



「女の子に押されてこけたぁ。いっくん? 負けるよ? そんじゃあねぇ」



もの凄くウザい顔をつくる春原。天神が一番ムカつく顔の一つだ。



『………オーケー、オーケー。上等だ―――ッ!』




――*――




ビーチの奥にあった木陰に天神と春原はいた。先程の勝負は無効。少しだけ激しくなりすぎた。



天神が全速力で追いつき、そのままスライディングを繰り出したり。春原の殺人キックが繰り出されたり。勝負が戦いにまで発展したのだ。



久々に思い切り騒いだから、天神は多少だけ機嫌がいいようにも見える。



『なぁ……、はる。海って広いし、綺麗だよな……。なんか、こう、罪が洗われていく、みたいな?』




少しだけトーンを下げて、そんなことを言う。何でそんなこと言うかな、と春原は苦笑いをする。




「罪って……。まったく、ここに来てまでそゆこと言わないのっ! ダメダメ」




『………、』




「たとえ、今いっくんが自責の念にかられてても、わたしが今は楽にしてあげるから。楽しも?」



















『………ン? あぁ、わりぃ。セミの事考えてた』




「」



ひどいと言うべきなのだろうか。天神はポカーンとしている春原を見て笑った。



春に吹く爽やかな風のように。

――*――



 
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