Heaven's Lost Property

□Someone_elegy
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『ひとがおおい〜』



浴衣姿の天神が心底嫌そうにそう言った。何度も言うようだが、彼は人混みがあまり好きではない。



「いっくん〜? しょうがないでしょ、お祭りなんだからぁ」



『すみませんでしたぁ』




そう。今日は『空美町なつまつり』なのだ。毎年行われるお祭りで、毎回智樹達と一緒に来ているお祭りだ。今年はイカロスと守形先輩が一緒なため、何だか新鮮な空気を感じている天神なのであった。とは言え今は少し気分が悪いみたいだが。




「―――〜〜〜♪」


『人が……ブツブツ』


「………ショッボイなぁ〜〜」


「うっせぇぞ智坊!!」



今現在、射的屋の目の前に天神達はいる。ちなみにこの射的屋とは小さな頃からの馴染みだ。



『………、あのなぁ……。おっちゃんさぁ、何も分かってねぇよ……? こんなショッボイ景品で客が来るとでも思ってんのか? ――……来るわけねぇだろぉがよぉ!! まず前提が違ぇし、キャラが意味わかんねぇんだよ! 捩り鉢巻きにキセルくわえてるなんて―――』



「―――分かった! いっくん分かったから落ち着いて? 八つ当たりはダメダメだよ?」



「何だか輝が荒れてるな」


「輝君荒れてますね。咲ちゃんが言ってた通り人混みが嫌いならしくて……」




そんな事情がありながらもみんなと一緒にお祭りに来るところなど、そういうところがみんなに好かれる一因なのだろう。




「まったく、うっせぇぞ! 早くやれ!」



『だからだな! こんな――――ムグッ!』


「こーらぁ、暴れないの! もぅ、普段こんなんじゃないのにぃ」



「………、やるけどさ。今年客少なくね? 大丈夫なのかよ」




その言葉に射的屋のおっちゃんの息が詰まった。触れちゃいけないことだったらしい。もちろん智樹はそれを気にする様子など皆無だ。




話を聞く限りでは、お向かいに豪華景品を用意したらしい射的屋が新しくできてしまい、客が全部取られてしまいました。という事らしい。




「今年は智坊が初めての客っつぅか……」



「なんだ、じゃあ俺もそっち行こっと☆」



「オォイ!!!!」




――*――




「………なんじゃこりゃ」


「……ハト、いっぱいだね」


『ハト消えたら、ふんまみれの人が佇んでたりしてな』


「……なにそれコワイ」




各々がすき放題に感想を述べる。なんだか、これがドラマとかのセットだったら天神の言った通りになり、NGになりそうな感じだった。



「射的屋JUDAS」外観は普通なのだが、ところせましと景品が置かれているわけではなくて、射的スペースにはところせましとハトがいた。




「…………なぁ、………人は死んだらどこに行く……?」



「へ?」




バサッ! という羽ばたく音と共に、ハトが何とかかっこよく努力したような飛び方で飛んで行く。



途端。丸みをおびた線の画から、鋭い線の画に変わったような。更にわかりやすく言えば、照明を急に消したような変化がおとずれた。



コメディ調だったハトとは打って変わって、非常に物騒な事になっていた。



そこには長髪で鋭い眼光のおっちゃんがいたのだが、明らかにただ者ではない。この世界にいていいのかもよくわからない。そんな彼は「―――いらっしゃい」と言い、天神達は思わず言葉を失ってしまう。




『…………うわぁ』



「……ねぇ、トモちゃん。何かヘンだよこの射的屋さん…。だって……店の中銃ばっかりで……」



「フム。『景品』が一つも見当たらないな」



「あっ、ホントだぁ」



「祭とは―――何?」急に天神達に声が掛かる。



「会長!?」


『何か起きそうだなぁ……』




木陰から スッ、と出て来たのは会長こと五月田根美香子とその愛犬だった。その口調は何やら神妙な雰囲気を醸し出していた。



「祭とは本来……、町中が一体となって楽しむものではなくて? なのに昨今の祭りときたら、各々が勝手に夜店をまわるだけ……」



「そこで―――」と神妙な雰囲気が一変した。テキ屋のおっさんの時とは逆の現象が起こる。



「我が五月田根家でプロのテキ屋を呼んでみました♪ 町中で一緒に楽しめるように☆」



(待て待て待て!! 『どの道』のプロですか!?)




思ったが言わない。言わない方が身のためな気がひしひしと感じるため言わない。




「ルールは簡単。このコルク銃でサバイバルゲームを行い、最後まで生き残った一人に『豪華景品』をプレゼント。どう?」



「豪華景品?」



美香子はどこからともなく「豪華景品」を取り出した。


その正体は―――――











「現金(げんなま)。一千万」









「―――――」


「―――――」


『―――――』


「―――――」


「――――?」


「……………」


唖然、愕然、驚愕、驚倒。天神達四人は、まさにこれらの言葉がピッタリと当て嵌まる反応を示した。開いた口が閉じないとはこのことを言うのだろう。



とは言え当たり前だろう。大人でさえもしりすぼみするほどの金額だ。中学生がまともに対応できる額ではない。




「なるほど……、『夢』さえも買える金額……。そう言いたいのだな……」



「センパイッ!?」



ライフルを取り、怪しげに光る眼鏡の位置を直す守形英四郎。



「い・い・い・いっせんまっ…!! あっ……、あわっ…、あわあわわわわわ」



「そはらっ!?」



拳銃を取り、一千万という額に自分を見失い、がくがくと奮えだした見月そはら。



「一千万かぁ。みんなであっそび放題だねぇ。やるぞ〜」



「咲までっ!?」



同じく拳銃を手に取り、早くも一千万を獲得した時に、みんなで遊んでいる想像をしている、春原咲。



『他人を蹴落として自分が甘い蜜を吸うわけか……。ふふっ、めちゃくちゃ面白そうじゃねぇか』



「まさかの輝さんまでっ!?」



拳銃を二丁手に取り、片方の唇を吊り上げて不敵な笑みを浮かべる天神輝。



(頼みの輝までもうダメだ……。確かに一千万は魅力的だし、サバイバルゲームも楽しそうなんだけど……。なーんかイヤな予感がするんだよなぁ〜〜………)




こうして、町内すべてを巻き込んでのサバイバルゲームが始まったのだ。




パァンッ!! という音とともにアナウンスが流れる。




《競技―――始めっっ!!!!》


――*――

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