落乱(小説)

□一人の夜
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「乱太郎としんべヱ…今頃何してんのかなぁ」
今日から夏休みとなり皆それぞれ家へと帰り、いつもは賑やかな一年長屋も静まり返っていた。きり丸はというと、休み期間をいつもお世話になっている土井先生が学園長の命令で出掛けており戻るのが明日になる為今日は長屋に居残りである。
(静か…だな)
床に入ったものの、何となく寝付けない。いつもなら、しんべヱのいびきの中でもすぐに睡魔がやってくるというのに…。
(学園に入る前は、ずっと一人だったってのに…)
“はぁ…”
「少し、夜風にでもあたるかな…」

気分転換に廊下へ出ると、心地よい風にホッとした。座って空を眺めれば夜空に広がる満天の星に何となく自分の小ささを思い知らされるようだった。
(明日も晴れそうだなぁ…)
思い返せば、忍術学園に来るまでこんな風にのんびり空を見るなんて事はなかった気がする。ずっと、生きて行く事に必死だった。忍術学園に入ろうと決めてからはそれまでとは違う生きる目的みたいのが出来たけど…周りをみるような余裕はなかった。
学園に入って、は組の皆と出会って…いつの間にか自然と笑えるようになってた。
(あんなに一人が楽だったのに…皆の存在がこんなに自分の中で大きくなってたなんて。忍者としてはどうなんだろ…)
土井先生なんて、休みまで俺の面倒見てるし。
(土井先生…まだ仕事やってんのかな…本当なら今頃一緒に家に帰ってたんだよな)
土井先生に会いたい気持ちを考えないようにしていたのに、一度考え出すと止まらなくなる。
は組の皆とも違う存在。
(早く帰って来ないかな…)
「…土井先生の…馬鹿」
同じ空を見ているかも知れない土井先生に文句をいってみても聞こえる訳がないのにと思いながら八つ当たりをしてみる。
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