落乱(小説)

□気持ち
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アルバイトが終わったってのに、俺はまだ家へ帰れないでいる…。帰りたくない訳ではない。帰れないのだ。その理由はというと…

「おきり、後悔はさせないよ。何不自由ない暮らしを約束しよう。だから、私と夫婦になっておくれ」
「ごめんなさい、若旦那。何度も言うようですが私と若旦那では立場が違います。それに、こんな由緒ある老舗へ嫁に来るなんて私には…」
もういい加減、こんな不毛な会話は終わりにしたい。いつも、お世話になってる旦那さんと奥さんの息子じゃなきゃこんな分からず屋は足蹴にしたいくらいだ。
「何を言ってるんだい。おきりくらい器量もよくて美人で頭の良い女なんて私はしらないよ。それに身分の違いなんて夫婦になればどうにでもなるんだから」
はっきり言って鬱陶しい…本当は男だと言えればこんな苦労をしなくて済むのに。旦那さんと奥さんから
「息子が、きりちゃんの事を好きになってしまったっていうんだけど…男だということは秘密にしておいてほしいの」
「惚れた女が男だったなんて知ったらあまりに不憫でね…。勿論、断ってくれて構わないから」
そう言われて迷惑料だからと駄賃を受け取った自分を今更ながらに呪いたくなった。
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