くろねこといっしょ

□くろねこといっしょ
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ぬくもりがあたたかくて心地がいい。
いつの間に寝てしまったスザクは夢のなかで柔らかいものが頬をくすぐるのを感じた。
ぼんやりとした頭で、そうだ猫がいるんだと思い出す。気位が高いのかなかなか触らせてくれない猫だったが、今なら大丈夫だろうかと思って手を伸ばした。
もともとスザクは動物が好きだ。猫は好きですか?と友人であるユフィに聞かれた時も何の気なしに頷いた。まさかそれで預かることになるとは思いもしなかったが。

スザクが伸ばした手に触れたそれはぴくりと反応したが、いつものように逃げることもなかったのでここぞとばかりに撫でてやる。
ああ、すべすべして気持ちがいい。少し緊張してこわばっている様子なのも可愛い。それにしても意外と筋肉質で、人の肌のような―。

・・・ん?ひとはだ?

スザクの隣にあるわけがないものを右手で触っている。まさか自分の肌を自分で触っているわけでもあるまい。急に意識がクリアになるのがわかった。なでなでと触る手はそのままに、スザクはうっすらと目を開ける。
目の前には、横たわる白い足と、形の良い尻に尾骶骨から伸びる黒い尻尾。
昨日スザクは一人で部屋にいたはずだ。起きて隣に人なんていた経験がないからこれは夢なんだろうか。
いやそれよりも何よりも、人に尻尾って何だ。
スザクの手はその人の足に置かれていて、ふわふわと伸びる尻尾がその手をぱしりと叩いた。

それが合図かのようにスザクは無言で飛び起きる。
寝起きにこんな動けるなんて反射というものは恐ろしいとスザクは頭の片隅で思いながら後ずさり、勢い良く壁に頭をぶつける。ゴン、と頭を打ったときの見本のような音が響いた。
その音か動いたスザクに反応したのかベッドからのっそりと人が立ち上がる。

スラリと伸びた手足に細い首、さらりと揺れる漆黒の髪から見え隠れする深く美しく輝くアメジスト。そして頭部に付いた猫耳に揺れる尻尾。

なんて綺麗な人―。いや猫?白い肌と黒い髪(と耳と尻尾)をまじまじと見ながら、まるで彫刻のようだとじっと見つめてしまう。彫刻なんてそうそうみたことはなかったけれど、おそらく古代ローマとかの芸術家はこういう人をモデルにしたに違いないとスザクは思った。いやこんな時に何を考えているんだ。

目の前にいる彼(幸か不幸かその姿は男性であった)のことを考えるのをスザクの頭が拒否したのか、それより今何時なんだと慌てて枕元にあるはずの時計を目で探した。7時から教授が待つ研究室に行かなければならない。あった、と時計を見つけたスザクがその文字盤を認識するより早く、彼がベッドに足を掛けスザクに顔を近づけてきた。

「研究室なら取り止めになったそうだ。失礼かと思ったがうるさかったので触らせてもらった」
そういってスザクの目の前に携帯を開いて寄こす。顔が近い。
すっと筋の通った鼻にきれいな形の眉、吸い込まれそうなアメジストにほんのりと赤い唇。同性だというのにどぎまぎするなんて変だ、と思いながらそれでも今までこんな美人をしかも近距離で見たことがないからだとスザクは自分に言い訳をする。顔が赤くなっていないだろうか、少し汗ばんできた気がすると思いながら、なるべく平静な声をだそうと努力をしたが少しだけ声が裏返ってしまった。

「あ、ああそう」

携帯のディスプレイに表示された教授からのメール着信は6時。諸事情により一旦中止、とだけ入っている。現在の時刻は10時過ぎだった。遅刻をしても怒られないだろうけれど、その代わり別の研究も手伝ってよ〜と事あるごとに言われてしまうところだ。また別の何かを思いついたのだろうか、ひとまず中止でよかったとため息を漏らすが、目の前の問題は消えてはいない。むしろ別の事を考えて逃げたいと無意識に思っていたスザクに逃げ場がなくなったことになる。

けれどこのままの状態でもいられないので、躊躇いがちにスザクは口を開いた。

「その、ところで君は誰?」
「見てわからないのか?」

間髪入れず分かるのが当然かのように返す彼だったが、いやと思い直したようにそれはそうかと呟く。
ふむと頷く彼の動作に合わせてぴくぴくと動く耳は仮装でつけるおもちゃでもないようで、本物なんだとスザクは妙に感心をした。
少し落ち着いたのか、先ほど壁にぶつけた頭と、耳に鈍痛があることに気付き、スザクはひとつの答えに行き当たった。そんなことあるわけ無いと思いながらも未だ顎に手を当てたままの彼に訪ねてみる。

「もしかして・・・ルルーシュ?」

少しだけ震えた声に顔を上げた彼は耳をぴくりとさせて「そうだ」と一言だけ告げ、スザクの隣に腰を下ろした。


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