くろねこといっしょ

□くろねこといっしょ
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「これなんてどうかな」
「却下だ」

ちろりと紫の瞳を動かし、提案した僕の手元を見て一言だけ返す。こうはっきり言われるといっそ清々しいと思えるようになったというかそう思わないとやっていられないというか。
またかとため息のようなあきらめの声をぽそりと出して、スザクは一刀両断した声の主をみつめる。スザクよりも数センチだけ高い身長にさらさらとした黒髪。大きな帽子をかぶり、丈が長めのコートを着ている。同性の目から見てもかっこいいと思う。

スザクのため息は彼の耳には届かなかったらしい。どうやら気に入ったものがなかったようで、一歩足をずらし先程見ていた棚の隣へと移動をしていた。

(猫、にはみえないよな・・・)

昨日まではスザクが両腕に抱えられるほどのサイズだったのに。ここに来る途中でも道行く人達からちらちらと視線を受けていた。そのルルーシュはスザクの横で時折品物を手に持ってはひっくり返して几帳面に元あったのと同じように畳み元の棚へと戻し、また別のものみるということを繰り返している。気に入ったものがないというよりかは買い物をすること自体を楽しんでいるようにもみえた。

それにしても、とスザクは先ほど彼に勧めたそれに視線を落とした。両手でほんの少し広げて再びため息をつく。別に男同士で買い物に来ることはそう珍しいことではない。スザクは基本的に買い物はひとりでするが、たまに大学の友人の買い物に付き合ったりもする。それでも普段よりも妙に周りからの視線を感じるのは彼が美人だということもあるだろうが、そもそもこの手に持ったものが原因なんだろうと思う。

スザクの手にあるのはオーソドックスな白いブリーフ。
店員はモードな髪型をした男性で、店内の客は男性の一人客が二人と、カップルが一組、彼へのプレゼントを選んでいるのだろうか女性のふたり連れが一組いるだけだった。
棚にあるのは多少形は違えど、全て同じ。パンツだけだった。

ここは男性用下着専門店である。

男性二人で来ることなんて滅多にないんだろう、店内へ入ってから他の客を始め店員までちらちらとこちらへ視線を向けてくる。二人で一緒にあれでもないこれでもないと言っているのもいけないんだと思う。女の子同士だったら微笑ましいのだろうとスザクは思うが、男二人だとどうも妙な目で見られている気がする。そう思っているのはスザクだけで、ルルーシュはまったくマイペースに買い物を続けていたが。

(まあ、猫・・・だしなぁ)

何度目かわからないため息をついて、スザクは再びルルーシュへと提案するべくまだ見ていない棚へと視線を向けた。

事の発端は全裸でいたルルーシュが壁に背を付いていたスザクの隣に座ったことによる。もちろんルルーシュにとっては何も意識しない、ごく自然なことであったのだけれども。ベッドの奥で座るスザクの少し手前でベッドに腰掛けるルルーシュ。スザクと話すために、上半身を軽くひねりスザクの方へと顔を向けてベッドに手を付いた。彼の肩越しにはゆれるしっぽ。それがどうにもいけなかった。

とにかく顔が近い、ルルーシュが何かを話していたけれど話なんてスザクの耳にはまったく入ってこなかった。
なめらかな白い肌に細い首、小さい顔に揺れる髪、そして手をついてスザクの方を向いたことにより近づいた小さな顔。話しながら時々ぴくりと動く猫の耳。彼がルルーシュだとわかって僅かにすっきりとしたスザクの気持ちは、あっという間にまた混乱へと戻った。先ほどとはいささか違うものであったけれども、混乱したスザクにはその違いはわからなかった。

長いまつげに縁どられた深い紫がスザクの方をまっすぐと見る。形のいい唇が動いていたが、それが何かを発していたがスザクの耳を素通りするばかりだ。ただ自身の顔が赤くなるのを感じてスザクは慌てて顔をそらす。

「―聞いているのか」

「・・・っとにかく、服を着よう!話はそれからだ」

近づいていたルルーシュの両肩を掴んで自分から離し、スザクはクローゼットからルルーシュに着せるための服を探した。探しているというよりはただ服をがさがさと動かしているだけのような気もしたが、それでも比較的きれいなものを手に取り押し付けるようにルルーシュに渡す。

「これ、着て」

「・・・わかった」

スザクの剣幕に押されたのかそういうものだと理解していたのか、おとなしくシャツへ袖を通しボタンを器用にとめていったルルーシュだったが、さあ次の服、というところで手が止まった。

「おい、これはなんだ」

ルルーシュが手に持っていたのは下着だった。

「あっそれ大丈夫。唯一の新品だから!」

猫でも下着を気にするのか、いやあの気位の高い黒猫だ気になるんだろうと思いながらスザクは慌てて答えるが、ルルーシュの様子を見るとどうやら違うようだった。むぅとした様子をしているから何が嫌なのかと聞いてみる。

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