くろねこといっしょ

□くろねこといっしょ
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ベンチに座るスザクの前を、人々が通りすぎていく。

平日だというのに複数の専門店が入るショッピングセンターは賑やかだ。程良くざわついた空間でスザクはぼんやりとルルーシュが進んだ方向をみていた。つんと澄まし、われ関せずとばかりに気ままに過ごす黒猫と、先程スザクへと笑顔を見せた人の姿をしたルルーシュ。猫が人に変身するなんて到底信じられる話ではないのに、それでも妙に納得してしまうのは彼に耳と尻尾が付いているからだろう。

気が動転して聞けなかったが、そういえばユフィはルルーシュが人になることを知っているのだろうか。服を着慣れていないようだから裸だったのかなとまで考えて、今朝見た裸のルルーシュが主人の部屋で寛いでいるのを想像してしまい、スザクは変な感情にとらわれひとり頭を抱えた。

「・・・・・・待たせたな」

見た目にも落ち着かないスザクに、着替えから戻ってきたルルーシュが不審そうに声をかける。はっと気がついたスザクは顔を上げ、慌ててルルーシュに待ってない待ってないと繰り返した。なんだか弁明をしているようだとスザクは気付き、話を逸らすように立ち上がる。帰ろうかとルルーシュに声をかけてスザクは外へ向かう出入口へと歩き出した。おい、ちょっと待てと後ろでルルーシュの声がした。
スザクの気持ちは落ち着いていなくてこのまま進んでしまいたいのだけれども、そのまま彼を置いていくわけにも行かなくて立ち止まり振り返る。向かい合ったルルーシュへ何?と問いを発しようとして口を開いた瞬間、ぐうううううう、と間の抜けた音がスザクのお腹から返事の代わりかのように鳴った。



*



「なんだ全く聞いてなかったのか」

呆れたような声を出し、ルルーシュはサンドイッチを口へと運ぶ。その声にスザクはただゴメンというしかなかった。握りこぶし二つ分程のフランスパンを横半分に切ったところに、レタスとアボガドとエビが入ったそれは、パリシャキシャキと音をたててルルーシュの小さな口へと消えていく。

通りがかった人にもちらりと見られるほど盛大にお腹の音を立てたスザクに、ルルーシュは笑いながら「お腹が空いた」と言った。よく考えれば朝から食べていないのだ。時計は12時の針をとっくに過ぎている。何が食べたい?と話しながら、二人でレストラン街へと向かった。

食べたいものというよりは道具を使わずに簡単に食べれるものがいいというルルーシュのリクエストもあり、テラス席のあるチェーン店のカフェに入った。
道具を使わなくてもというのは食事をするのに箸やフォークを使えないことに気を使って発せられた言葉だろうと思ったが、何の違和感もなくサンドイッチを食べてコップを口に運ぶルルーシュをみると、やってみればフォークでも箸でも使いこなしてしまいそうだとスザクは思った。ちなみにルルーシュの飲み物はミルク一択だった。その注文を聞いたときの女性店員の顔にはかわいいと書いてあって苦笑したが、スザク自身も同じ顔をしていたことには気づいていない。

それにしてもしっぽと耳は大丈夫なのかとスザクは思う。念のため何かあってもすぐに出れるようにと、オープンテラスがあり前会計の店にしたのだけれど、見つかったときにどうしたらいいのかは深くは考えていなかった。
ねこみみというジャンルが確立されている今日、ただ頭に猫耳がついている姿なんてそう珍しくはない、と思う。多分。日常に現れたところで騒がれ好奇の目を向けられて、そしてその後きっと、何かのプレイをしているんじゃないかというスザクに対する白い目が向けられるんじゃないかとスザクは想像して身震いをする。先程の店で店員にされたガッツポーズが尾を引いているようだ。まあ本当に生えているのがバレるよりはそちらのほうがまだマシと言えるかも知れないけれど。

時折ぴくりと動くルルーシュの帽子に気を使いながら、スザクが聞いた話によるとルルーシュがこの姿になったのはこれが初めてということだった。朝スザクの携帯の音で起きたと思ったらこの姿になっていたらしい。

「それじゃ君はそのままなの」

思わず口を付いてでたスザクの言葉を聞いて、淡々と話をしていたルルーシュの表情が曇った。ルルーシュの変化に気付き、スザクははっとする。

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