くろねこといっしょ
□くろねこといっしょ
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スザクが部屋へ帰ると暗い部屋のベッドの上でルルーシュがうずくまるように寝ていた。
スザクのパーカーを羽織っている。白い足は服を着るのが嫌だといっていたからか投げ出したままだったが、一緒に買ったパンツはきちんと履いているようだった。心細くて不安だったのだろうか、疲れてしまったのだろうか。スザクはルルーシュの目尻にまだ乾いてない雫を見つけて拭った。部屋は綺麗に片されていた。いつもと何かが違うと思ったら、どうやらルルーシュが掃除をしてくれたらしい。
(すごいな・・・)
テーブルに積んであった参考書を資料に使ったままの食器は一箇所にまとめられ、部屋に干しっぱなしの洋服などは全てたたまれてクローゼットの前に置いてあった。
(本当にこないだまで猫だったのかって疑いたくなっちゃうよなぁ)
それでも猫耳としっぽはしっかりとあって、夢ではないことを告げていた。よく寝ているとスザクがルルーシュをみると、目尻にはまだ乾ききらない雫があった。それに気づいてスザクはベッドに腰掛けてそれを拭う。急な変化に不安になっているのだろうとスザクは解釈してルルーシュの髪を梳く。指先にほんの少し触れた猫耳がぴくりと動いた。
「あ、起きた?」
「ん・・・」
くぁ、と大きなあくびをしてルルーシュはその場で伸びをする。さすが猫だとスザクは笑って、目をこするルルーシュへ手に持った紙袋を掲げてみせた。
「はい、今日の収穫」
*
二人でルルーシュのパンツを買いに行った日。
家に帰る途中で、そして帰ってから夜あたりが寝静まるころまで、スザクとルルーシュは唯一の手がかりになるであろう白い猫を探した。ルルーシュが出会ったという場所から普段気づかないような小さな細い路地や近所の公園など、考えられる場所をいくつも探しまわったが、手がかりは見つからなかった。家に戻ってから何も考えずに二人でベッドに倒れ込んで泥のように眠った。
翌日、ルルーシュは変わらず街を探した。
スザクは学校があったので、白猫を一緒に探せない代わりに講義の合間をぬって文献をあたってみた。ふとした時間に、キャンパス内に白猫がいないかと、いつの間にか探してもいた。けれども、やはりというか考えて見ればその通りというか、見つけることはおろか手がかりさえつかむことが出来なかった。
街から猫一匹、しかも手がかりなしで見つけようと思うほうがどうかしている。誰かに相談しての人海戦術も考えては見たが、なんと言っていいのかスザクにはわからなかった。嘘をついて探してもらうにも情報が少ない。せめて写真があればと思ったがそもそも飼猫じゃないようだから難しいだろう。スザクがため息を付いていると、後ろから親しげな声がかかる。
「おーい。どうしたんだよスザク」
「リヴァル」
スザクが大学に入ってからの友人だ。学科が違うものの、総合教科で一緒になり仲良くなった彼とはたまに遊びに行ったり、ご飯を食べたりする仲だ。
「何か考え事か?」
「うん、ちょっと・・・」
「なになにーなんかあったの」
リヴァルのいつもの屈託の無い笑顔にスザクは少しほっとする。
「うーん。近所で一回見ただけの猫なんだけどさ、ちょっと探してて」
「猫?」
「あ、うん。ちょっと知り合いが探してる猫に似てたからさ」
やばい不審に思われたか。スザクは猫の話をすること自体軽率だったかと焦ったが、リヴァルは特に気にする様子もなかった。猫ねぇ、とつぶやいて一瞬考えたあとリヴァルが口を開く。
「マタタビ持ってみると寄ってきたりするかもなー」
なーんちゃってどんな猫探してんの、あれ?聞いてる?というリヴァルの声はスザクには届かなかった。
ほとんど研究室に缶詰であった教授の手伝いでまとまった休息が得られなかったところに、預っていた猫が人化という嘘みたいな話に出会ったのだ、確信を持ったというよりも藁に縋りつくような思いだったのだろう。リヴァルの手を握り笑顔でありがとうと力強く友人に礼を言うスザク。そしてそのまま駆けて行った。
「・・・おう」
頑張れよーと力なく手を振るリヴァルの声は聞こえていない。マタタビ、マタタビと繰り返してスザクは大学を後にした。