ここきす
□三
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時が止まったかのようにしんと静まりかえる。
外へ出ようとしていたシュナイゼルたちも吃驚して足を止めていた。
「……どうやらシャルルさんが目を覚ましたようね」
沈黙を破ったのはミレイだった。
はっと気付いたスザクが店の暖簾から顔を出して外を見る。
倒れていたシャルルの周りに集まっていたうちの数人は、起き上がったシャルルの地獄の咆哮のような声に腰を抜かしていたようだった。
店から顔を出したスザクに気付いたジノが大きく手を振っている。
「それではそろそろいいかな」
ジノへ合図替わりに手を上げるスザクの後ろから、シュナイゼルが声をかけた。
はっとスザクが振り向くとシュナイゼルはルルーシュの腰に手を添えていた。
さぁ行こうかと声をかけ、シュナイゼルがルルーシュを店の外へと促す。その様子が彼らの親密度を表しているかのようで、スザクは何も言えなくなってしまう。
ルルーシュは黙ったまま、スザクの方を見ることもせずそのまま少年少女と共に店を出ていってしまった。
それでは、とシュナイゼルが暖簾をくぐり、途中で振り向いてスザクに声をかける。
「我々は失礼させてもらうけれど、何かあったら店の方に連絡をくれればいいからね」
そして今度はミレイの方に向かいにっこり笑う。
「あなたのつくる和菓子はほんとうに美味しかった。評判のお団子が売り切れてしまっていたのは残念でしたが、また次の機会に頂きにまいります」
セシルにも顔を向け会釈をしてシュナイゼルが出て行くと、ミレイとセシルがほう、とため息を漏らした。
「噂には聞いていたけど格好いいですよねぇ」
「上方から帰られたばかりだから雰囲気も江戸とはまた違うものねー」
うっとりと言わんばかりなふたりはシュナイゼルの姿を見送るとクスクスと話し始める。
「じゃあ僕はシャルルさんに事情を聞いてきます。忙しい中ありがとうございました」
ぺこりと会釈をしてスザクもミレイの茶屋を後にした。
いつもの微笑ましい彼女たちの談笑も、今のスザクには重くのしかかるだけ。茶屋を出てシュナイゼルたちが去っていったであろう方向に目を向ける。
当然ながら、姿はすでに見えなかった。
シュナイゼルの洗練された立ち振る舞いに女性を魅了する笑顔、ミレイとセシルで世の女性たちの反応をみたような気がして、スザクは暗い気持ちになった。
とはいえスザクも女性に人気がないわけではない。幼い顔立ちながら、武に長け人々の面倒見もいい。町を歩くと色めき立つ女性は多いし、店などでも顔を赤らめて応対をする娘たちは多い。あからさまに好きだの惚れただの言うものがいないから、当人はそれに気付いていないだけの話だ。
それにスザクの頭の中は今しがた出て行ったルルーシュとシュナイゼルのことで頭がいっぱいだった。
演劇には間に合わないはずだ、どこへ行くのだろう。禿のあの子たちがいるから変なことはしないだろうけれど、とスザクはそこまで思ってその変なことを想像してしまった。
自分にはまだ許されていない、彼と触れ合う行為。
シュナイゼルはもうそれが許されているのだろうか、袖から伸びた白く美しい肌に触れ、柔らかい唇を味わう、そしてまだ見ぬ彼の身体の奥へと進む。そうした時の彼はどんな表情をするんだろう。そこまで想像して、スザクはなんだかいけないことを考えているような気分になって顔を左右に振った。
無意識のうちに汗をかいて握り締める自分の手に気付く。
いつの間にこんな風にひとりの人に執着するようになってしまったのかとスザクは苦笑した。