ここきす
□五
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翌朝、ジノの家の前で彼が出てくるのを待ちながら、スザクはため息を付く。
思いも掛けず夜桜見物になった昨晩、ルルーシュのことを思いながら床に付いた。
伽羅の香で寝付けなかったのに、あの後はその香りに安堵を覚えて眠りについたのだから不思議だ。
こんなにひとりの人の事を考えるなんて本当に自分はどうかしてしまったと思いながら、スザクはまたルルーシュのことを思い浮かべる。
今度はシュナイゼルと寄り添うように歩く、彼の姿を――。
「おぉぉはよう、スザクくん」
急に耳に届く独特の喋り方に、スザクは驚いて振り向く。
そこには以前と変わらないシャルルの姿があった。
髪がなくなってこざっぱりした男前のシャルルではなく、ロールケーキをしっかりと蓄えた姿。
あまりの自然さに、昨日のことは夢であったのかと思うほどだ。本当にまるで何事もなかったかのようにシャルルの頭部には白銀のロールケーキがくっついている。
「えっ?シャルルさ……ん?」
びっくりしたスザクが思わず髪を指さして口をパクパクしていると、ジノが「悪い待たせたな」と門から出てきた。
「あれーシャルルさんおはようございます……ってえっ」
一晩で生えてきたんですか、なんて間抜けな質問するジノにシャルルはぶるわっはっはっと豪快に笑った。
「こぉれはのうぅー。かつらだよ、カ・ツ・ラ」
そういって自慢げに頭部を指し、かつらであるロールケーキを愛しそうになでるシャルル。
「いやぁーあの後、噂を聞いたあの子に贈ってもらったのよ!さぁぁすが我が愛しのル……ぁあの子ぉ!だから犯人探しはもういいのよ。いろいろすまなかったのぅ」
そういってさらにぶるわぁと笑う。
シャルルはいつもより機嫌がよさそうだ。これからお団子を買いにミレイの茶屋まで行くという。お礼にお団子をご馳走しようというシャルルに、スザクとジノは顔を見合わせた。昨日は顔を真っ赤にして怒っていたのに、今では仏のように、と言ったらいいすぎだろうがにこにこと笑っている。
道すがら話を聞くことにするが、消えたお団子の行方は知れないままシャルルはただ解決したと言うばかり。
突然襲う人がいるのは物騒だというスザクとジノにも、シャルルは自分が保証するから大丈夫と繰り返すだけだった。
被害者がもういいって言っているんだからと言われては、スザクとジノはしぶしぶ頷くしかなかった。
そうこうしているうちに三人はミレイの茶屋に到着する。
お団子くださいなーと店内に入るシャルルに、店の前で立ち止まるジノとスザク。
「シャルルさんは犯人をかばっているのかな」
「まー内々に解決したって感じだよな」
とりあえず、警戒だけはしておこうぜと言って中に入るジノの後に続きスザクも店内へと入った。