ここきす
□六
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茶屋を飛び出した後、混雑する町の人ごみをすり抜けてスザクは走っていた。
向かう先はルルーシュのいる斑鳩。
そして思い出す。
ミレイの茶屋でじっと黙って目を逸らし続けていたルルーシュ、三会目の桜の話に交わした口付け、二会目に垣間見た笑顔に初会の澄ました顔。初めて会った時に見た荘厳な花魁道中――。
ほんのり染まる白い頬に宝石のような紫の瞳、そして花のような笑顔。
落ち込んでいると彼の禿は言っていた。気落ちした顔も可愛いのだろうと思う自分は自惚れているだろうか。
――早く、会いたい。
今会ったら彼はどんな顔をするのだろう。
スザクは今まで見てきたルルーシュを何度も思い返しながら足を早める。
そうしてスザクは店に来るときにも、ただ姿が見えないかとわざわざ遠回りをして何度も通った店の前に到着した。
店はまだ早い時間だからか、玄関周りを掃除している男衆がひとりいるだけだった。
「あの」
スザクは数度見たことのある短髪の男衆に声をかける。くるりと巻いた赤い鉢巻が妙に目立つ。
「あの、ルルーシュに会いたいんですが」
「はぁ?」
唐突に話しかけるスザクに、男衆は怪訝な顔で振り向く。
「店はまだだよ。それに知らないのか、ルルーシュは難攻不落と言われるうちの看板だ。おいそれとは会えないんだよ」
これだから仮宅営業は、とため息を付いて掃除に戻る男。
それでも会いたいんだとスザクは男としばらく押し問答を続ける。
するとその声を聞きつけたのか、店の奥から店主らしき人物が出てきた。
「おーい玉城、喧嘩はやめないか」
「扇、だってこいつよう」
扇と呼ばれた男はスザクを見ると、顔を覚えていたのか合点が行ったように頷き対応を引き継いだ。
「申し訳ありませんが、準備が整っておりません。楽しい時間を過ごすためにもお待ちください」
柔らかいけれど線をひくような物言いだった。
けれど今引くわけには行かないとスザクが食い下がろうとした時、中から緑の髪の女が出てきた。
「おい扇、そいつを中に入れろ」
「C.C.、けれどルルーシュは……」
「営業は停止とはいっていないだろう。それにこんな往来で騒ぎ立てられてはたまったものじゃない」
ここは吉原じゃないんだと、C.C.と呼ばれた女が扇に周りを見るように促す。
つられてスザクもあたりを見ると行き交う人が興味深そうにこちらをちらちらと見ていた。
途端に恥ずかしくなる。
騒ぎ立てて申し訳ないと、スザクがC.C.に詫びると、C.C.はくいと顎で店を指した。
「付いて来い」
一言言い残すと、C.C.は中へ入っていった。
このまま店に入っていいものかと一瞬思ったが、どうやら彼らも止めるつもりはないようだった。
扇と玉城に頭を下げ、スザクはC.C.の後を追う。
「まーったC.C.かよ。扇いいのかー。ルルーシュを謹慎っていったのもあいつだろう」
「そのC.C.が言うんだ。それにもう行ってしまった」
「そらそうだけどよぅ」
文句を言い腐る玉城に、扇は掃除を続けるようにいい、階上を見上げた。