ここきす
□七
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いつの間に焚いたのだろう、部屋の隅にはともしたばかりの伽羅の香がうっすらとした煙をくゆらせている。
ルルーシュは薄緋色に昨日とはまた異なる桜柄の着物を着ていた。華やかな着物の色とは違い、ルルーシュの顔は曇ったままだった。
しばらく、無言の時が続く。
俯いたままのルルーシュはスザクの方を見ようともしない。普段にない表情に、もしかしたら怒っているのかもしれないとスザクは思う。
「急にごめん、ルルーシュ」
気まずい空気をなんとかしようと口を開く。スザクの言葉にルルーシュがピクリと反応をした。一瞬躊躇した後、意を決したようにスザクを見てほんの少しだけ震えた声で話す。
「――どうして此処に」
そうスザクを見つめるルルーシュの目が心なしか潤んでいるように見える。
C.C.にも何故と此処に来た理由を尋ねられた。どうして、を口の中で復唱する。
シャルルの髪の毛が元に戻って、ルルーシュの禿にあって、シュナイゼルは関係ないと言われて、スザクに見られたくなかったようだと言われて、たまらなくなって店を飛び出した。
斑鳩に来るまでの道のりをルルーシュのことを思って走った。
「どうしてって、どうしても君に会いたいと思ったんだ」
会いたかった、そしてそのルルーシュは目の前にいる。
三会目のあの時と一緒のようで今は違う、今は、聞きたいことがあるから。スザクはまっすぐな瞳でルルーシュを見つめる。
それでもルルーシュはわからないという風に首を振る。
「だって私は……」
その先が続かなくてルルーシュは紫の瞳をそっと伏せる。まただんまりになってしまった。
――お兄様はあなたに知られたくないようでした。
けれどナナリーの言葉がスザクを後押しする。初めは怒っているように見えたルルーシュだったが、緊張をしているのかもしれない。
少し意地悪だろうかと思ったけれども、直接ルルーシュの口から聞きたくて、彼の名前を出した。
「たとえ君がシュナイゼルさんと一緒に外で過ごしていたとしても、僕はここに来るのをやめるつもりはないよ」
「違っ」
顔を上げてスザクの目を見るルルーシュに嬉しくなる。
「それにかしこまらなくてもいいんだ。僕はそのままの君に会いたい」
スザクがそう言うとルルーシュは視線をさ迷わせまた黙りこむ。そんなルルーシュをみてスザクは続ける。
「ミレイさんの茶屋で君に禿に会ったよ」
再び顔を上げるルルーシュ。
「昨日君が落ち込んでいたようだと聞いて、どうしても会いたくなったんだ」
別の客と一緒にいるところを僕に見られたくなかったなんて、言われて自惚れだと思ったけれど、それが本当だったらいいとスザクは思う。
むっつりと黙っていた昨日も、少し緊張気味の今日も、自分のことを意識してくれていたならそんなに嬉しいことはない。
「シュナイゼルさんが君に興味を持っているという噂は知っていたから、一緒にいるところを見てさすがに堪えたけど」
「あれはっ、たまたま道でばったり会って、外出がばれたら困るからと俺のことを庇ってくれただけで。……店を出たあとはすぐに別れたんだ。それに向こうは俺のことを知っていたようだけど、会ったのは昨日が初めてだった」
形の良い口から出てきたのは普通の言葉で、スザクが頼んだことだというのに特別な感じがして嬉しかった。思わず頬が緩んだスザクは俯くルルーシュに歩み寄る。
そしてルルーシュの前で屈んで、両手で手を繋ぎ、下を向いてしまうルルーシュの顔を見上げた。