ここきす

□八
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 もうすぐ満開になりそうな桜の木には見向きもしないで目の前の団子を口に頬張り、もぐもぐと口を動かしてため息をつくのはC.C.だった。

「全く面倒くさいものを預かったものだ。いくらあいつの頼みとはいえ手間がかかる」

 それはただの独り言であったが、たまたま通りかかった扇が「なんだ」とC.C.に声をかけた。

「心配してたんだな」

 チッと聞こえるか聞こえないかという程度の舌打ちをして、C.C.はじろりと扇を見る。

「何のことだ」

「いや、ルルーシュがおとなしくなりそうでよかったな」

「ほう、おとなしくなりそう、か。それは仮とはいえ店主のお前が躾けるべきことだろう。それを何がよかったな、だ。何を知るわけでもないのに知ったような口を。いいからただのリーゼントは店の準備でもしていろ」

 「馬鹿の相手は疲れる」と禿が買ってきた団子に手を伸ばすC.C.にたじたじしながら、扇は「でもなんだかいい方向に向かいそうな気がする」と再び準備へと戻っていった。



*



「あれっ、何その髪」

 広がる江戸の町を天守閣から望遠鏡で覗いていた少年は、長い髪を揺らして振り向く。

「に、にいさん」

 慌てて腕を上に上げ、髪の毛―かつらをはずすのはシャルルだった。

「これはかつらで……」
「ふうん」

 にいさんと呼ばれた少年は腰掛けていた縁から降りるとシャルルに近づいてにっこり笑う。

「せっかく髪の毛切ってあげたのにね」

 巨躯のシャルルと比べると親子と見紛うほどの差があったが、明らかに気圧されているのはシャルルだった。

「にいさぁぁぁん。お団子を一本あげようとしたくらいでこれはひどいですぞぉぉぉ」

「あれ?僕のお団子なのに人にあげようとして、そのまま勝手に食べちゃうほうがひどいんじゃない?」

 にこやかに少年に言われシャルルはぐっと詰まり、慌てて話を逸らすように手をぽんと叩く。

「そうそう、今日もお団子はちゃんとありますぞ」

 ほらほらと言わんばかりに指し示したシャルルが示す手の先には、ごつい顔をした家臣が団子山盛りになった膳を掲げていた。

 冷や汗を垂らしながら言うシャルルを横目に「そんなの自慢することじゃないだろ」と悪態をついて少年はお団子を食べだす。

 やれやれと胸をなで下ろすシャルルに追い打ちを掛けるかのように少年は言葉を続ける。

「今度やったら髪の毛だけじゃすまさないからね」

 ならにいさんが買いに行けば、とシャルルがぼそりつぶやくと、少年はさらににっこり笑って言う。

「将軍がそんなことしたら大問題だろ。それに町の様子を知るためにシャルルを出してるのに意味が無いよね」

 「昨日わしの後をつけてきてたのはにいさんなのに」と言いかけて、より酷い事態を引き起こすことに気付き胸にしまった。

「そんなことよりそろそろ政務の時間だ。先に行って書類用意しておいてよね」
「はいはい」
「はいは一回でいいよ」
「……はい、にいさん」

 シャルルはため息をついて政務室へと向かった。

 V.V.は最後のお団子を咥えて再び望遠鏡を覗き込む。このお団子を売っている茶屋は今日も繁盛しているようだった。

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