宝物
□去り行く過去を忍ぶ
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久しぶりに戦闘に出ると珍しいモンを見た。
「あ…」
「え………?
おい!危ねェっ!!」
それから数時間後、何やら甲板が騒がしかったモンで上に上がってみたオレは壮絶に後悔している。
「ったく、テメェは何やってんだ!普段からぼーっとしてるとは思ってたけど、まさか戦場でまで同じだとは思わなかったよい!」
「怪我したわけじゃないんだからいいでしょ!」
甲板には人だかり。
そして、一際人口密度の濃い辺りの中心からは、どう見ても穏やかでない感じの会話がやり取りされていた。
「そういう問題じゃねェだろい!テメェがそんなんじゃ、他のヤツらに示しがつかねェって言ってんだ!」
「示しって何!?私は隊長様みたいなお偉い肩書きなんて持っていないけど?」
「肩書きだァ?実質、女連中を仕切ってるのはテメェだろい?それがさっきのは何だ!?そんなんだから女は戦いに向いてねェって言われるんだよい!」
「はァ!?何その男尊女卑発言!私が女だから弱いとでも言いたいの?だいたいあの海賊はアンタが討ち漏らしたヤツじゃない!!」
「何だと??」
「最初からアンタがしっかり留め刺してりゃこんな事にならなかったのよ!!」
「じゃあ何か?アレはオレのせいだって言いてェのか!?」
「今頃分かったの!?隊長とか言われてるんならあんな敵くらい一撃で沈めなさいよ!」
「だったら、あんな敵に後ろ取られたテメェは何なんだよい!」
「だから後ろ取られただけでやられたわけじゃないでしょ!!」
またアイツらか……。
込み上げてくるため息を堪える事なく吐き出すと、今も激しく言い争っている二人の元へと歩みを進めた。
「はいはい、ストッ〜プ!二人共落ち着けって」
文字通り二人の間に入り互いの身体を引き離す。
それでも一歩も譲りそうにない所からしても、戦闘バカだなとつくづく思う。
「で?喧嘩の理由は何だ?」
理由なんて、どうせ聞いてもくだらねェって事は分かってる。
今までコイツらの喧嘩を千度と言わず見てきたが、一度だってくだらなくなかった事などないのだから。
そういえば、いつからだろうな?
こうやって仲裁に入るようになったのは…。
若い頃なら血の気が多いヤツらだと笑って見過ごす事が出来たが、それも段々と変わってきた。
年を追う毎にそのくだらねェ言い争いは激しくなり、ほっとけば洒落になんねェくらいの損害が出るようになったのだ。
『テメェら、ほどほどにしとけよ』
『親父、そんな悠長な事言ってる場合じゃねェ!こいつらモビーを沈める気だぜ!?』
『好きにさせてやんな。ほっときゃその内飽きるさ』
親父はそう言って笑ってたっけ。
「サッチ隊長!!」
「え?」
「このままじゃ船が壊れちまう!」
「こうなったら親父に止めてもらうしか…」
昔に浸ってる暇もないか…。
「いや、これしきの事、親父の出る幕じゃねェよ」
不安そうな新入りを宥めて再び二人の間に分け入った。
「もうそのくらいにしとけ。新入り達がビビってんぞ?」
「「………!」」
そう言った途端、二人はピタリと口を閉ざす。
どうやら互いの立場を忘れるほどに我を忘れた訳じゃないらしい。
それがわかると、やれやれと今度は別の意味でため息をついた。
「で?今日は何だ?」
「「コイツ(この人)が…」」
「「………!」」
また睨み合う二人。
「あ〜、分かった分かった」
それを見たオレは、ククッと喉元から込み上げる笑い声を噛み殺すのに必死だった。
まったく、コイツらは……。
「マルコ、お前はだいたい過保護過ぎんだよ。いくら名無しさんが心配だからってな、コイツは軍艦の一隻や二隻、簡単に沈められるんだ。化けモンみてェな女だって巷じゃ散々騒がれてんだろ」
思えばあの時だって、オレが庇わなくても名無しさんなら簡単に避けられていたはずだ。
「それから名無しさん。お前、あん時よそ見して何見てたか言ってみろ」
「あ、あれは………」
口ごもった名無しさんの頬は微かに赤い。
どうやら予想は的中したらしい。
「どうせ上から戦ってるマルコにでも見とれてたんだろ?」
「や……、ち…違うって………////」
「つー訳で、こりゃ痴話喧嘩だ。いつもの事だから気にすんな」
新入り達にそう伝えると、連中はバカみてェに口をポカンと開いていた。
ったく……。
本当にくだらねェ…。
「出会ってひと月やそこらじゃねェんだ。いい加減飽きるとかって事はねェのかよ」
厭味のつもりで二人に聞こえるようそう言った所で、ん?と首を傾げる。
こんな台詞、誰かが言ってなかったか?
いつぞや、親父が言ったその台詞。
親父はほっときゃその内飽きると言ってたが、いつになったら「その内」がやってくるのか。
その前に、船が沈まなきゃいいんだかな。
「ちょっとサッチ、どこ行くのよ〜!二人きりにしないで!!」
「バーカ、二人きりにさせてやるから、さっさとヤる事やって仲直りしてくれ」
ヒラヒラと後ろ手に手を振ってその場を後にする。
同時にそこに集まっていた若い連中もバラバラと散っていった。
時代が変わっていく。
そして親父が甲板に姿を見せなくなったように、人もやがて変わっていく。
だが、そこには変わらないヤツらもいて、その変わらないヤツらを羨ましいと思うオレはやはり変わってしまっているのか。
過ぎ去った遠い日常をただ振り返るしか出来ない。
→ヒロイン視点
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