記憶

□愚かな戯曲を、
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ああ、なんていう愚かな戯曲。




「お前さんの考えてることは、ようわからん」


テレパスなんて在りはしない。
完全にお互いわかりあうことなんて在りはしない。

同じものを見て、同じように感じたとしても、それは完全に一致するわけが無い。

人は集団であるように見せかけているただの散らばっている個人なのだから。
己は己でしかなく、己が誰かに成り代わることなど出来やしないのに。



それなのに君はそれを望む。



「そう」

「ああ、俺なりに考えもしたがな。やっぱりお前さんは俺なんかじゃ読みきれん」


誰が自分をどう思っているか、どう自分が見られているのか、知りたがるのは人の性。
そして、結局わかること無い相手の思考に絶望する。

それから目をそらし幸せに生きてく事もあれば、そらせずに悩み苦しむ事もある。


どうやら、君は後者みたい。



「お前さんといると自分自身までようわからなくなるんじゃ」

自己存在理由。アイデンティティー。

考えれば考えるほど深みにはまる。
己は何か。何が己か。
己で己を決めることは難しい。
結局は誰かが決めた己を己と決めてしまう。


何故なら、それが確かで楽だから。



「じゃから」


相手の思考なんて読めるわけが無い。
だって、自分は自分でしかなく、相手は相手でしかない。
混ざりあえば、自分の存在を揺らがす。


このせかいがゆらぐ。


その筈なのに、君が何を言いたいか、はっきりとわかる気がするよ。



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