たんぺんエース
□温もり
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私には、好きな人がいる。
その人のために強くなろうとしたし、今現在も強くなろうと努力している。
例えその人が私より遥かに強くても、弾除けくらいにはなれるように。
――何て思っていたのは、何時のことだったろうか。
「えー、す、たいちょ…」
「喋るな!おい、っくそ、止血…!」
「わたし…すこ、し、は、…やくに…」
「だから、喋るなって!」
「……たい、ちょ…わたし…」
「黙れよ!おい、黙れ!」
「…、わた…し…」
あなたが。
冷たくなっていく手。
それがとてつもなく恐ろしくて、胸に穴を開けたハナの身体を抱き締めて温める。
そんなの全く役に立たないのに、寧ろしない方が良いことなのに、おれはハナを失いたくない一心で抱き締める手に力を込めた。
「マルコ、どうしよう、ハナの体温、どんどん低くなってく!」
「今船医がこっちに向かってるよい!止血をちゃんと、」
「どうしよう、なぁどうしようマルコ!」
おれ、こいつを失いたくない!
半ば叫ぶように言うと、マルコは普段おれを怒るときなんて比べ物にならないくらいに恐い顔をしておれからハナを奪い取った。
慌てて奪い返そうとしたら、後ろから素っ飛んできたイゾウに身体を押さえつけられて出来なくて。
何で!
何でハナをおれから取り上げるんだって怒鳴ったら、「今だけ取り上げられるのと一生取り上げられるのどっちが良いんだお前は!」って殴られた。
それで少しだけ冷静になって、空ろな目を宙に向けているハナの手を握って。
「ハナ、寝るなよ、起きてろよ」
と、恐々と声を掛けた。
こんなときどうしたら良いのか、本当に解らない。
そもそも、ハナがおれを銃弾から庇ってこんなことになった。
おれは自然系の能力者だから平気だろうと思っていたけど、どうやら相手は銃弾に海楼石を仕込んでいたらしくてそれに気付いたハナがおれを庇って――。
「っ!」
ぶるり、身体が震える。
ハナの血に染まった自分の身体を見下ろして、掌を見て、ハナを見て。
あぁ、おれが殺したようなもんじゃないか。
おれが、ハナを殺した。
おれが――
「エース!」
「っ!」
鋭いジョズの声に、はっと我に返る。
ぼやける視線を彷徨わせて、怒った顔のジョズを見たら――ちょん、と下を指差され。
そのままに視線を下へ向けたら、空ろに宙を見ていたはずのハナの視線が、おれへと向いていることに気付いた。
「…ハナ…?」
「え、す…たい…」
船医がハナに処置をしている。
脈を測っているナースが厳しい顔をしているのが見えたけど、そんなことに構わずにおれはハナの手をしっかりと握り直して。
もう一度「ハナ」と名前を呼べば、ハナはいつも見せる柔らかな笑顔とはまた違う、どこか逞しいような笑顔を見せ。
「いきて…たら、…きす、して…ください…」
それを聞いた瞬間、おれは返事もせずにハナの唇に自分のそれを押し付けた。
血だらけのキスは、それでもハナの温もりをしっかりとおれへ届けてくれた。
*これでも二人は恋人ではありません。
どさくさに紛れて告白した形。
因みに死んでませんよ(笑)