○妖狐×僕SS

□【昇る月】
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【昇る月】

カルタの暴走、犬神命の野望。
まるで物語が一つの区切り告げるかのように公園の桜が月光を浴びて妖しく散った。

戦闘力の高い自我を失った先祖返り達の攻撃は予想を遥かに越えた攻撃力を有しており、妖館の戦闘員4人は苦戦していた。
多数の敵を凪ぎ払う蜻蛉の仮面にはヒビが入り、
カルタを殺めぬ様に対戦している野ばらの肌には玉のような汗が浮き出ていた。
攻撃を受けた手首から流れる血を気にすることもなく分身を召喚し続ける御狐神を、
凛々蝶は庇うように薙刀を構えて大きく肩で荒い息を吐いた。

4人は限界という2文字に近づいているのをどこかで悟っていた。

カルタを封じていた氷の檻がミシミシと嫌な音をたて所どころの柱がかけ始めた。
野ばらが力を込めようと集中し、がら空きになった背後を一体の妖怪が襲いかかる。
跳躍し野ばらの背後へ滑り込んだ蜻蛉が刀で攻撃をどうにか反らした。辺りに耳障りな金属音と咆哮が轟いた。
蜻蛉には野ばらに暴言を吐く余力すら残っていなかった。

一方、少し離れた桜の大木の下で犬と狐とその飼い主とが静かなにらみ合いを続けていた。2対1の条件は意味をなしてはいなかった。御狐神の胸に浮き出た「印」はまるで生きているかのように刻々と大きくなっていった。重たくなる体を忌々しげに毒づきながら己を心配する凛々蝶を護ろうと御狐神は足に力を込めた。犬神は口の端についた血を舐めながらうっすらと笑みを溢していた。まるで狐が動かなくなるのを待っているかのように……。

時間は淡々と過ぎていった。
ただし、いつまでたっても夜は終わろうとしなかった。朝日が昇れば妖怪の本能に身体の主導権を奪われている先祖返り達は動きが鈍くなるのは簡単に予想がつく。太陽が顔を出すまでにはまだまだ時間が残っていた。


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