脱色

□羅生門
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もし君が選択を迫られて、

僕を殺すか、君が死ぬか

それを決めなければならない時が来たならば君は迷わず自身が死ぬことを選ぶのだろう。

そうして君は醜く死んでいくのだろう。



もし君が選択を迫られて

僕が生きるか、君が生きるか

それを決めなければいけない時が来たならば君は迷わず君が生きることを選ぶのだろう。

そうして君は醜く生きていくのだろう。



さぁどっち?

僕の愛し子はどちらを選ぶ?



「雨、やなぁ」

「どうかされました?」

「ん、雨やなぁ思て」

「そうですね」

窓の外を見ながら率直な感想を漏らす。

雨は嫌い。雨が降っとると青空は拝めんし、太陽にも会えん。
昼なのに外は暗ぉて、静かでお月様のない真っ暗な夜はなんや寝付けん。
散歩にも行けんからここぞとばかりに仕事を積まれる。
髪の毛は湿気で頬にへばりついてうっとおしいし、雨音をきくとイライラする。
あの子の声もよぉ聞こえんし、困った顔も笑った顔も暗ぉてよく見えん。
何よりあの子の金色の髪がくすんだ色になっとるんが気に食わない。
やから雨は嫌い。

「隊長は雨はお好きですか?」

「んー、僕は好きや無いなァ。でも、僕には似おうとる」

雨は僕に似おうとる。
暗闇から忍び寄って相手を飲み込む蛇のような僕には似おうとる。
雨で血を、匂いを、真実を洗い流して僕はまた嘘をつく。

「どうしてそのようにお思いになるのでしょうか?僕はそのようには思えません」

「イヅルは僕が嘘つきなんを知らんやろ」

「知っていますよ。知っていて隊長に仕えているんです」

うつむいて答えるイヅルの表情は黄糸の髪の毛が顔を覆い隠してしまっとって見ることは適わん。
けど、声だけは淡々としとる。
凛とした僕の好きなイヅルん声や。
顔を見せないんは僕に見られるんが嫌やからか、それとも僕に見られたらまずいからか。
まぁ、そんなんどっちでもええ。
イヅルが僕についてくるっちゅうその事実だけがあればええ。

「僕が嘘つきの悪人でもイヅルはついてくるんか?」

「隊長が白というなら白に、黒というなら黒にでもなってみせましょう。隊長の進む道こそが僕の進む道です」

揺るぎのない声。
この子はもう決心しとるんやろう。
僕の後ろについてくるっちゅう決意を。
それが自身を滅ぼす道だと知っていてこの子はついてくるんやろう。

「イヅル、もしお前が決めなあかん時がきて。僕を殺すかお前が生きるかを選ばなあかんときが来たら、イヅルはどっちを選ぶやろか」

「…僕はどちらも選びません」

「そか、そらええな」


もし君が選択を迫られて、

僕を殺すか、君が生きるか

それを決めなければならない時が来たならば君は迷わず選択を諦めるのだろう。

そうして君は。

そうして君はどうするのだろう。

「ついておいで、イヅル」

「どこまででも、市丸隊長」

嗚呼、

そうして君は笑うのだろうか。
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