黒薔薇代わりのキンセンカ

□掏(す)れない愛情
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これは、違う。
愛情じゃない、


俺が好きなのは──・・・・




  【掏(す)れない愛情】






仕事を終え、あるマンションの一室へと向かう。


歩きながら煙草を吸うのは駄目と分かっていても、吸ってないとイライラしてしまう。


インターホンを押せば、扉一枚の向こう側には合図がなっただろう。どたどたと足音が俺のいる傍まで来ているのが分かる。それが分かると不思議と口角が上がってしまうものだ。


「三蔵待ってたわ。おかえり」


茶髪の顔立ちの整った女性。
俺が大学の時から付き合ってきた恋人。
名前は鈴村葉月。



「疲れた、さっさと入れろ。」


ドアが開いた瞬間に俺はすぐさま入る。
本当は合鍵もあるが、開けて笑っておかえりと言ってくれる顔が見たかったなんて言えるはずもない。



俺が彼女と同棲しないのは理由がある。


悟空と暮らしてるからだ。



前世の記憶もあるせいか、悟空を孤児園から引き取った。


それからずっと育てている。今はやっと高校三年生だから、卒業したころには、俺の元を離れるだろうか、いやさっさと独立して俺を楽にさせろ。


俺が彼女の家に行く間は、悟空は八戒と悟浄が一緒に住んでるアパートにお邪魔させて夜ご飯を食べていくというルート。




「何か食べる?」


「あぁ。」



彼女は鼻歌歌いながらキッチンへと向かう。
俺はそれを横目で見ながらも煙草に火をつけた



「部屋を煙草の匂いにしないでよー!」

ジュゥと何かいい匂いの物を焼いている音をBGMに彼女は言う。


「ッチ」


舌打ちしながらも、窓際まで行って、ベランダの前で再度吸い始めた。


ぼーとしながらも思い浮かぶのは今日の学校の事。





新しいクラスには悟空を含め、個性的な生徒立ちだとは思ったが、


”『三・・・ぞ・・・う』”



俺の名前を呼ぶ女の一人の生徒の顔と声が脳内にこびり付いている。
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