novel
□元素L
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月曜日。
毎週昼頃ジャンプを買いに行きつけのコンビニへ向かう。
「チッ…雨かよ…」
傘をさすのもめんどくさいところだが、濡れるのもまためんどくさい。仕方なく玄関にあったビニール傘を開くと、何故か穴だらけだった。
「……神楽ちゃーん、番傘貸してー」
「嫌アル、私これから出掛けるネ」
「じゃ、ついでにジャンプ買ってきて」
「嫌アル」
結局雨の中、ダッシュでコンビニまで来たわけだが。
「うぉ〜…さみぃっ」
「ちょっと銀さん!店の中で水滴はらわないでよねっ!」
「うるせぇババァ」
店のオーナーのババァを受け流して目的のジャンプのを手にした俺は真っ直ぐレジへ……行かずにイチゴ牛乳も手にしてからレジへ向かった。
「いらっしゃいませ」
「……ん?新人さん?」
長らくこのコンビニにはお世話になっているが、レジにいる彼女を見るのは初めてだ。なんというか、可愛い。ぶっちゃけ好みだ。ドストライクだ。
「はい、先週の水曜日から働かせてもらってます」
んー、笑顔も可愛いんだなぁ。名札に目をやると、そこには『神田』と書かれていた。
「……神田ちゃん?」
「はい、よかったら覚えてくださいね」
「覚えるよ、銀さん自分の好みの子はすぐ覚えちゃうから。下の名前は何て言うの?」
俺の言葉を聞いた神田ちゃんは少し顔を赤くして、戸惑ったような笑顔を浮かべながらジャンプとイチゴ牛乳のバーコードを読み取る。
「ゆいです」
「ゆいちゃんね。毎週月曜日いつも来るから、また会おうね」
袋につめてもらったジャンプとイチゴ牛乳を手にとり、ゆいちゃんに手をふって俺は店を出……
「銀さん!会計終わってないわよ!」
ババァに引きとめられた。渋々金を払ってコンビニを出ると、雨は激しさを増していた。
「マジかよ。こりゃ帰ったらシャワーだな」
雨の中へでていこうとすると、俺の着流しの裾をグッとひかれた。
「うぉっ」
「あ……すいません」
振り返るとそこにはゆいちゃんがいた。あー、やっぱ可愛い。少し恥ずかしそうな、そんな顔で裾掴むなんて反則じゃね?
「どうしたの?」
「いや、あの、よかったらこれ使ってください」
ゆいちゃんが差し出してきたのは淡いピンクの傘だった。
「私のなんですけど」
「え、ゆいちゃんが帰るとき濡れるじゃん?」
「いいんです。雨止むかもしれないし、降ってたらビニール傘買って帰りますから!」
ゆいちゃんは自分の傘を俺に押し付けて店の中に入ってしまった。どうするかな、これ。戸惑っていると、ゆいちゃんが戻ってきた。
「来週もこの時間にいるんで、持ってきてくださいね」
人の笑顔がこんなに眩しく見えたことがあっただろうか。これはきっと、俺に遅れてきた青春なんだ、そうに違いない。
あれから3日。ボーッとしてると考えるのはゆいちゃんのことばかり。まだ一回しか会ってないんだよ?もしかしたらスゲー性悪かもしんねーじゃんよ。でも可愛いしなぁ、可愛い悪女ってのもまた……いや、俺は遊ばれるのはごめんだ。それにゆいちゃんは悪女なわけがない、あんなに良い子が……
「あの……銀さん?」
「あぁん?なんだよぱっつぁんうるさいんだよ」
「いや、うるさいのはあんただよ。さっきから全部口に出てんだよ」
「仕事長引いちまったよ……。しかもまた雨だし。多分もう帰ってるよな」
月曜日、ついにこの日が来た。しかし仕事が長引いたせいで先週行った時間から何時間も遅れている。とりあえず、借りた傘を持ち家を出た。
コンビニの前で店内を確認すると、やはり彼女はいなかった。なんだか寂しいもんだな。店に背を向け、ジャンプもイチゴ牛乳も買わずに家路につこうと足を踏み出した。そのとき、
「銀さんっ……!」
「……ゆいちゃん?」
あれ?俺の名前教えてたっけ?
「あ、ごめんなさい。オーナーが「銀さん」って言ってたから」
雨にうたれながら、立ち尽くす俺に向かってくるゆいの姿に、俺の心拍数は上がっていく。
「傘、返しに来てくれたんですね」
「ん…あっ…あぁ。でも店の中にいなかったから、帰ろうと思ってた」
「ごめんなさい、帰りの支度してて」
それからしばらく沈黙が流れる。ゆいの服が濡れていくのを見てハッとした俺は彼女の傘をさして手渡した。
「ありがとう。助かった」
「いえいえ。…帰る方向、あっちですか?」
「え、あ、ああ」
「なら、途中まで一緒に帰りましょう」
俺はゆいと一緒に歩き出した、万事屋とは全く逆の方向に。
●元素L
●知らない人から特別な人に
●季節よ 僕たちを変えていって
●word by 元素L
::アトガキ::
「元素L」を聞いて、一目惚れネタを思い付いたので。
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