novel

□となりでねむらせて
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「笹塚さーん?」

「………」

「笹塚さーん??」

「………」

「笹塚さーん!!!」

「……なんだ…」

自分のディスクで居眠りをしていた笹塚さんを叩き起こしてブラックコーヒーの入ったマグカップを差し出す。

「さっき弥子ちゃんとあの助手の人来ましたよ?何回電話かけても出ないから帰ってもらいましたけど」

「そうか」

「居眠りなんて、余程疲れてるみたいですね」

笹塚さんは今回の殺人事件の調査や聴取で疲れきってるようだ。ズズズッと音を立ててコーヒーをすする彼の目元にはかなり濃いクマができている。

「クマひどっ」

「いつものことだ」

「ですよね。…ふぁぁ」

「お前も…疲れてるのか?」

「ぅぁっ!」

あくびをすると、笹塚さんの顔が私の顔に急接近してきた。こういうことをたまにするから無駄にドキドキさせられる……。

「べ、別に私は笹塚さんほど働いてないですから」

「……寝不足は体に悪いぞ」

「くっきりクマできてる人に言われたくないんですけど」

地味に悪態ついてみても、私は笹塚さんのことが好きだ。彼のことは何も知らないと言ってもいい。それでもいつも冷静な彼がたまに熱くなるところや、仕事に対する態度、そういうとこが好き。まぁ、思いを伝える気は更々ないわけですが。





事件は数日で解決。毎度毎度弥子ちゃんが解決して、我々警察は妙に生気が抜けた犯人をしょっぴいて行くだけ。

「食われた、食われたんだよぉぉ!!」

取調室で発狂したように頭を抱えて叫び続ける犯人は、見ているだけでイライラする。一体コイツの相手をしてる間に何本タバコを消費しただろうか。

「だぁから!食われただのなんだのどーでもいいんだってば!」

バンッと机を蹴るが、犯人は食われたとブツブツ言うだけ。結局その日の取り調べは終わり。私は疲れきって課の部屋にあるソファに寝そべった。

「疲れた………」

スーツのポケットをまさぐっても、タバコの空き箱しか見つからない。余計に苛ついて適当に投げ捨てた。

「…当たった…」

「え?あ、笹塚さん」

どうやら私の投げたタバコの空き箱は彼の足に当たってしまったらしい。

「すいません。かなりイライラしてたんで」

「俺の、吸うか?」

「あ、ありがとうございます」

体を起こしてソファに座ると笹塚さんは私の隣に腰掛けてライターを貸してくれた。笹塚さんのタバコは私のよりニコチンがきついから少しの量で満足してしまう。

「どうした?」

「いや、私のタバコよりきついからもういいかなって」

「そうか、じゃ」

笹塚さんは私からタバコを受け取ると吸いかけのタバコに口をつけた。

「ちょっ……」

「なんだ?」

「いや、あの、なんでもないです」

間接キスだなんて学生みたいなこと言えないし、恥ずかしいけどタバコ勿体無い気持ちもわかるし…。

「最近さ、」

そんなことを考えていると、笹塚さんがいきなり口を開いた。

「あ!はい!!」

「ゆっくり…寝れなくてさ…なんかこう家に帰るんだけど…寝付けないというか…」

普段最低限のことしか話さない笹塚さんがこんなに自分のことを話すなんて。

「それはストレスとかじゃないんですか?」

「ストレス?…いや、よくわからん」

「だってあの石垣と一緒に行動してるんですよね?私同期ですけど物凄い苦手ですもん」

「だろうな。お前とは合わなさそうだ」

口角をほんの少しあげた笹塚さん、きっと笑ったのだろう。笑顔なんか始めてみた。

「笹塚さん」

「ん?」

「笑った顔…というか、微笑んだ顔?可愛いんですね」

私がそう言うと、笹塚さんはタバコを灰皿に押し付けた。気に触った…?

「神田」

「はいっ」

初めて名前呼ばれた気がする、と驚いてると視界いっぱいに笹塚さんの顔が広がった。

「んっ…んん…!?」

え、今、キスされた?唇の感触、したよね!?どうしよう、どうすれば…ってかどういうこと!?

「神田……ゆい…だったよな」

「えっ、あっ、はい」

「なんか…いや、なんでもない」

「え!?…んぅっ…!?」

強い力でソファに押し倒され、再び唇が重なる。いきなり舌が入ってきて私の舌に絡み付いてくた。

「んんっ…んっ…はぁっ……」

「……神田…わりぃ…」

ギュッとつむっていた目を開くと、笹塚さんが見たこともないような切なそうな顔をしていた。

「笹…塚……さん?」

「…悪かったな」

「どうしたんですか…?」

頭を抱えたまま、私の返答に答えない笹塚さんをじっと見ていることしかできなかった。
重い沈黙が流れたあと、笹塚さんがゆっくり顔を上げた。

「なんとなくな…

抱きたくなったんだ、お前を」

そう言うとタバコに火をつけて煙を吸い込む、フゥーッと煙を吐き出す音がいつもより大きく聞こえる。

「誰でもいいってわけじゃないんだが、なんというか、お前だったから」

口数が少ない笹塚さんが必死に弁解しようとしてるのか、なんというかこんなに必死な笹塚さんは事件の時以外で初めて見た。

「……笹塚さん」

「なんだ」

「私、笹塚さんのこと、好きですよ」

「……」

目を大きく開いて持っていたタバコを床に落とした。そりゃ驚くでしょうね、言うつもりなんかなかったのに、口に出してしまった思い。

「俺がしたことわかってんの?」

「無理矢理襲おうとしたことですか?」

「あ…まぁ…そんなとこだ」

「そんなの、気にしてませんから」

笹塚さんの目をじっと見ていると、ゆっくりと顔が近づいてきた。

「疲れたら、よく寝れるっていうだろ」

「はい…」

「寝かせてくれねーか?」

「……はい」


となりでねむらせて
どうかそばに居させて
(お前の何かが俺を安心させるから。)



::アトガキ::
取り乱すというか、大胆かつ唐突かつよくわからない笹塚さん。



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