novel

□貴方の言葉
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いつかこうなることはわかってた。

仕事柄、危険と隣り合わせ。だから覚悟は決めてた。なのに、いざこの瞬間を向かえると酷く怖くて不安になる。

「ゆい!」

ああ、大好きな人の声だ。

「ゆい、ゆい!」

霞む視界にうっすらと見えた彼の姿。次第に彼だけがハッキリ見えてきて、凄く胸が苦しくなる。
だって、見たこともないような悲しい顔をしてたから。

「しっかりしろ!」

この人ってこんなに大きい声出せる人だったんだ。そう思うとこんな時なのに笑みがこぼれそうになる。



殺人事件に巻き込まれ大切な家族を亡くした私は、どんな形であれ大切な人をなくすのが怖くなった。だから友達も作らなかった。恋人なんて欲しいとも思わなかった。

刑事になり、仕事をしているうちに先輩の笹塚さんに何か私と同じものを感じて、惹かれていった。

そしていつの間にか恋人になっていた。

それでもお互い深い闇には触れず、心地良い距離で話し、抱き合い、キスをして、初めて彼に抱かれた時、私は「彼を絶対失わない」と決めた。

私は彼を失ってはいない。現に今彼は、私を運ぶストレッチャーについてきて必死に消えそうな私の命を引き留めようとしてくれている。

「ゆい、大丈夫だ。絶対に大丈夫だ」

根拠のないことを言う人ではないのに。私が消えそうな今、彼は私を失うのを恐れている目をしている。私と、同じ目だ。

「笹塚さん…」

彼の名前を呼ぶ。あまり声は出ない。彼に手を伸ばそうとしても力が入らない。

「私、死ぬのは怖くないと思ってました」

「…お前は死なない」

「この仕事につく時にも覚悟を決めましたし…でも、どうしてですかね」

「ゆい…」

頬を熱いものがつたっていく。
泣いたのなんか、何十年ぶりだろうか。

「笹塚さんを思ったら…すごく…怖いですっ…」

精一杯の声でそう伝えると、彼は黙ってうつむいてしまった。

「っ…衛士っ…私…死にたくないっ……」

ずっと貴方といたい。離れたくない。やっと手に入れた、私の中で欠落していた何かを取り戻してくれた大切な人。

「衛…士…怖いっ…」

「ゆい…」

救急車に乗り込んだようだ。車内が白くて眩しい。
ああ、体が冷たくなってきた。心臓の音も弱くなってる。もう、本当に死んじゃうんだ私。

「衛士っ…一人に…しないでっ…」

私に処置をする人達の隙間から、衛士に手を伸ばす。正確には伸ばした『つもり』。手はもう、動かなかった。
衛士は私を囲む人達の間に割り込んで、私にささやいてくれた。

「ゆい、愛してる…」

その後に続いた言葉を聞いて、私は安心した。もう死ぬのは怖くない。

目の前が、真っ暗になった。



貴方の言葉

「あとからいくから」

貴方は本当に、私と同じだ。




::アトガキ::
初のヒロイン死ネタ。現場で致命傷を負わされた的な…すいません細かい設定考えてません。
病み気味な二人が書きたかった。実際笹塚さんが「あとからいった」のかはご想像にお任せします。






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