novel
□PRECIOUS
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死と隣あわせの戦場。
血と火薬の交じり合った臭い。
身体が重たくて言うことを利かない。
「目、覚めましたか?」
聞き覚えのない女の声、そして戦場には似合わなさすぎるいい香り。
ゆっくり目を開けると、目の前には見たことのない女が一人笑顔を浮べていた。
「よかった。桂さん、この人目覚めましたよ」
「おお、そうか。大丈夫か銀時。戦場で倒れるなどお前らしくないな」
え、俺倒れたの?
「過労ですよ。ここ何日も寝る暇もなく戦地に出てるから。今は戦いも落ち着きました。天人も戦力を大幅に削られたようで」
「そうか…」
ヅラは他の奴に呼ばれたようでいつの間にかいなくなっていた。身体を起こそうとするが、全身が痛んで思うように動かない。
「大丈夫ですか?包帯変えるんで、ちょっと我慢してくださいね」
女は俺の身体を支え、上半身を起こすのを手伝ってくれた。
「でさ、あんた、誰?」
俺はずっと気になっていたことをやっと聞けた。
「私はゆいです。この付近の村で医者をやってました。戦になるからと聞いて逃げる途中、倒れてたあなたを見つけたんです」
「逃げなくていいのか?」
「貴方以外にもまともに手当てしてない方はいっぱいいますから。医者としてはほっとけないでしょう?」
そう言って笑顔を浮べるゆい。戦続きで張り詰めていた神経がほぐれるのがわかる。
「名前は・・・銀時、さんでいいんですよね?」
「さんはいらねぇよ。あと、敬語じゃなくていい」
「わかりました、じゃなくて、わかった。私のこともゆいでいいから。よろしくね」
そう言いながら包帯をといていく。
新しい包帯を用意するとゆいは恥ずかしそうに目をそらした。
「どうした?」
「いや、あの、巻くときに抱きつくみたいな体勢になるんだけど、構わない?」
医者のくせにそんなこと気にするのか?可愛いとこもあるんだなと思い、少し笑みがこぼれる。
「大丈夫、気にしねぇから」
「そう、よかった」
ゆいは俺の前に座り、包帯を巻き始めた。
身体が近づく瞬間にふんわりと香る女らしい匂いが、なんだか変な気分にさせる。
いやいや、待て待て。落ち着け俺、ゆいは俺達の手当てをしてくれてる『医者』なんだ、性別『医者』だと思え俺。
「銀時?」
「お…おう!」
「終ったよ」
ああ、なんか。笑顔がたまらなく可愛い。
それからゆいは俺達とともに戦医としてついてきた。そして、時を経るとともに俺の大事な人になっていた。思いは伝えてねぇけど。
なんとなく、ゆいのことを考えながら空を見上げて「戦いが終わったら…」なんてことを考える。
「銀時」
「おお、ゆい。なに?」
いきなりゆいに呼びかけられ、少し驚いてしまった。そんな俺を見て「どうしたの?」とクスクス笑うこいつを抱き締めたい衝動にかられるが、それを抑える。
「笑うなよ。で、どうした?」
「うん、あのね。この戦い、いつ終わるかなんてわかんないけどさ。全部終わったら、銀時に伝えたいことがあるの」
「……え?」
「だから、絶対、死なないでね」
これは、期待してもいいのか?
「ゆい…」
ゆいに手を伸ばした、その時
ドンッ!!!!
物凄い爆発音とともに、天人からの空襲が始まった。砂煙でゆいを見失い、手探りで探してみるが見つからない。
「ゆい!ゆい!大丈夫か!?」
返事は返ってこない。
冷や汗が頬をつたう。まだ何も伝えてない、おれはあいつも同じ。大事なことなのに、今あいつを失いたくない。絶対。
戦争は終わった。結局あの空襲以来、ゆいは行方不明。生きているのか、それとも死んでいるのか、それすらもわからないまま、俺は今生きて万事屋として生活している。
『万事屋銀ちゃん』
でかい看板を掲げたのは、もしかしたらゆいが気付いてくれるかもしれないと思ったから。それでもあいつは現れない。
探そうと思ったが、躊躇してしまう。もし、もしもう死んでいたなら、俺はそれを受け入れられるのか?
「銀ちゃん、どうしたネ」
「ん、ああ。ちょっと考え事だ」
「客が来たアル」
空気の読めない客だな、と苛々した。
今俺は正直仕事どころではない。たまにこんな風になるんだ。#NAME1##のことを考えて、会いたくて、会いたくてたまらなくなるときが。
「今はそんな気分じゃねぇんだよ。帰ってもらえってマジで」
「そんなこと、言わないでよ」
聞き覚えのある声が聞こえた。ふんわりと香ってくる懐かしい匂い。そして、その笑顔。
「……おいおい、マジかよ」
「銀時、久しぶり」
俺はそいつを強く抱き寄せた。
「ごめんね、待たせて」
「……」
「戦争が終わってから、ずっとずっと探してた」
あの時言えなかったこと、一番大事なことを伝えたくて。
「好きだよ」
「好きだ」
PRECIOUS
これからずっと何も変わらないから
「愛してる」
::アトガキ::
Vi●iDの「PRECIOUS」を聞いてたら浮かんできたのをバババッと形にしてしまった。もっとちゃんと話考えればよかったよ、いつも思いついたら突っ走るからこんなんなんだよ。ごめんなさい。
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