novel

□はっぴぃほわいとでぃ
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もう三月。ホワイトデーが近い。


どうするか、これにするか?第一、ゆいはどんなのがいいんだ?やっぱこの綺麗なたっけぇ宝石ついたやつか?あー、わっかんねぇ。

「何してるんですか?」

「うわっ!?」

ホワイトデーのお返しはどれがいいものかとアクセサリー店のショーウィンドウを見ていると、いきなり背後からゆいに声をかけられた。

「今見回り中ですよ?いきなりいなくなっちゃったから、どうしたのかと思いましたよ」

「別に……ただ、綺麗だなと思って見てただけだ」

誤魔化してみるが、多分気付かれるだろう。この俺が、こんな時期に女物のアクセサリー見てるなんて、ホワイトデーのお返し以外にありえない。

「そうなんですか?まぁ、確かに綺麗ですよね」

あれ?こいつ気付いてないのか?確かにゆいはしっかりしてるようで、変なところが抜けているとこがあるが。まさかこんなことに気付かないなんてな。

「あ、これなんか綺麗ですよね。ピンク色のハートのやつ!」

「あれか?」

ゆいが指差した先にあったのは、高い宝石のついたものではなく、チープな商品のところにかけてあったハートのシルバーアクセサリー。ハートの中心にピンクの綺麗な石がついている。

「安モンじゃねぇかよ」

「高いやつって、なんかどうも苦手で。ああいうのの方が可愛いし、好みなんです」

「へぇ」

「あ、それよりもう屯所に戻る時間ですよ!」

早く戻りましょう、と俺の腕を軽く掴むゆいに「マヨネーズ買ってから帰る」と適当にごまかし、帰っていく背中が見えなくなってから、俺はそのアクセサリー店に入った。




―――三月十四日

「なにそわそわしてんですかぃ、土方さん。気持ち悪いですぜぃ、死ね」

「おい総悟、千歩譲って『気持ち悪い』は許してやる。でも『死ね』は許さねぇ、テメーが死ね」

「お前が死ね」

いつも通りの総悟とのやり取り。
確かに今日の俺は気持ち悪いかもしれない。朝からゆいにホワイトデーのお返しを渡すタイミングを探してそわそわしている。

「さっさと自分の部屋連れ込んで渡せばいいんじゃないですかぃ?」

「……そうだよな。シンプルにするのが一番だよな」

「え、なに?もしかして土方さん、なんかロマンティックに渡そうとしてたんですかぃ?うわぁ、鳥肌たっちまった」

「うるせぇよ!テメーはとっとと見回り行きやがれ!!」

「へいへい」

総悟はだるそうに屯所の門を出た。その直後、猛ダッシュでゆいが外から帰ってきた。

「副長!!」

「なっ…なんだよ。そんなに急いで」

「…あれ?そこで総悟に会ったんですけどね、『土方さんがゆいを探し回って暴れてる』って言うから走って帰ってきたんですけど…」

「……馬鹿かアイツは」

まぁ、あいつなりに気をきかせてくれたんだろう。多分。

「嘘だったんですか?」

「ああ。探してはいたかもしんねぇが、暴れてはいないな。とりあえず、今から俺の部屋来い」

「…?わかりました」

ゆいの手をひき、俺の部屋に向かう。途中何人かの隊士とすれ違ったが、全員ニヤニヤしてやがった。あとで殴ることにするか。

「ほら、入れよ」

「失礼しまーす」

部屋に入り、さっさと戸を閉めてゆいを抱き寄せた。ゆいは一瞬不思議そうな顔で俺を見上げたが、すぐに俺の胸に顔を埋めて「久しぶりだなぁー」と嬉しそうに言った。確かに、最近はバタバタしててこんなことしてなかったか。

「ゆい」

「はい?」

「今はもう敬語じゃなくていい。二人きりだろ?」

「…うんっ」

ニッコリ笑うと、再び俺の胸に顔を埋める。俺は静かにポケットにいれていたプレゼントの箱を出し、ふたを開けて中身を取り出すとそっとゆいの首にかけた。

「ん?あ、これって…」

俺から少し離れて、首にかけられたネックレスを見る。この前ゆいが可愛いと言っていたハートのネックレスだ。

「可愛いって言ってただろ?安もんだが、バレンタインのお返しだ」

「ありがとうっ!」

そう言うと勢いよく俺に抱きついてきた。

「そんなに嬉しいのか?」

「んふふ、トシがくれるものならなんでも嬉しいんだよ?私は」

「ったく、可愛いこと言いやがって」

それから、どちらからともなくキスをして笑い合った。ゆいの笑顔を見ているだけで、幸せな気分になる。…幸せすぎて怖いぐらい、そう思うぐらい、俺はゆいを愛してしまっている。

「ゆい」

「なに?」

「愛してる」

「…私も、愛してるよ」



はっぴぃほわいとでぃ
ー土方十四郎の場合ー






◎その頃

「ぶふっ…土方のヤローデレデレしやがって、きもちわりぃ」

「沖田さん、静かにしないと見てるのばれますよ!」

「うるせぇ。大体テメーは仕事の技術をプライベートに使いすぎだぜぃ。副長の部屋覗いてるってばれたら切腹だけじゃすまねぇだろうねぃ」

「うっ……。だって、あんな副長見れるのゆいちゃんと一緒に居るときぐらいですよ?ぶっちゃけ、面白いじゃないですか…」

「まぁ、確かに」









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